近年、極めて薄い厚みでエピタキシャル成長させることで電気的に絶縁体のように振る舞う鉄系化合物FeSeに対して、電気二重層トランジスタ構造を用いたキャリアドーピングを行うことで、バルク体で観測される超伝導臨界温度の8Kに比べて4倍ほど高い35Kの超伝導臨界温度が得られ、その要因として、チャネル層が高い表面平坦性と結晶性を有することが必要であることを明らかにしたが、その更なる理解のため、母相であるFeSeの絶縁体的な振る舞いの起源の解明を行った。分子線エピタキシー法を用いて、SrTiO3単結晶基板上に約10nmの薄い膜厚でFeSeをエピタキシャル成長させた。作成したFeSe薄膜はすべて絶縁体的な振る舞いを示したが、鉄とセレンの化学組成比に依存して、エピタキシャル歪みの導入され方、さらにはその絶縁体的な振る舞い(活性化エネルギー)に違いが見られた。角度分解光電子分光法を用いて電子構造の直接観察を行ったところ、電気的には絶縁体的に振る舞うものの、電子構造は金属的であることを突き止めた。さらにホール効果測定の結果から、そのキャリア移動度が単結晶FeSeに比べて、1桁以上小さいことを見出した。以上のことから、この絶縁体的な振る舞いの起源が金属的な電子構造から半導体的な電子構造への変化ではなく、移動度の減少であることを解明した。 さらに類似化合物であるFeSの電気二重層トランジスタを作製するために、FeSのエピタキシャル薄膜成長を行った。FeSにおいて、FeSeと同一な正方晶構造は準安定相であるため、非平衡成長法の1つであるパルスレーザー堆積法を用いたエピタキシャル薄膜の作製を試み、世界で初めて、そのエピタキシャル薄膜の作製に成功した。
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