研究課題/領域番号 |
17J10158
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
祐川 侑司 東京工業大学, 工学院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 匂いセンサ / バイオセンサ / 嗅覚受容体 / 画像処理 / ロックイン計測 / パターン認識 |
研究実績の概要 |
本年度は,匂いの識別のために必要となる細胞センサアレイの構築とその応答パターンの解析を行なった。まず,2種類の昆虫嗅覚受容体をそれぞれ別々に発現している培養細胞Sf21を計測チャンバ内にランダムに配置し,2種類の匂い物質に対する細胞蛍光応答を画像として撮影することで細胞センサアレイを構築した。画像を連続して撮影することで,センサアレイの応答時系列データが得られる。微弱な蛍光を高いS/N比で取得するために,画像の各画素に対してロックイン計測を適用した。実装ハードウェアの制約から画像をリサイズして解像度を落とした10x10の各画素について,その空間的情報を保持したままのデータとしてセンサアレイ出力を得た。この100次元の時系列データの匂い応答毎に,応答前と応答ピークでの値を利用して正規化処理し,さらに主成分分析を行なった。その結果,匂いの有無および匂いの種類が主成分軸方向のばらつきとして現れることが確認できた。 リサイズ後の画素に複数の細胞が含まれる場合,画素間の特徴の差が少なくなり,パターンの分離が悪くなることが確認された。そこで,蛍光画像内の細胞1つ1つをセンサアレイ素子として取り扱うことができるように,円形Hough変換による画像処理を行い,細胞領域の抽出を行なった。前後の画像から各細胞領域の中心座標を比較し,時間変化に応じて各領域が追跡可能なアルゴリズムを考案した。検出した全ての細胞領域がセンサアレイの出力ベクトルの要素となる。このデータに対しても同様に主成分分析を行なったところ,匂いの種類についての応答パターンの差異が抽出可能であることがわかった。さらに,2種類の匂いを繰り返し交互に測定し,それぞれの最初の応答から作成した判別関数を利用することで,残りの応答での匂い種類の識別を確認したところ,正しく判別できることが確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2種類の嗅覚受容体を利用したセンサアレイを構築し,その応答画像解析から2種類の匂いを識別するという基本的な課題は達成することができた。円形Hough変換を用いた画像処理によるセンサアレイの構築は,嗅覚受容体の種類を増やす場合にも適用できる。さらなるシステムの高度化に向けて,その基礎部分が構築できたことから順調に進展していると判断した。細胞応答のドリフトの影響が識別性能を制限しているが,測定条件の最適化や応答評価手法を洗練させることによって,多種類のサンプルの識別などが可能になると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに2種類の嗅覚受容体発現細胞の蛍光画像を計測することで匂いの識別を行なってきた。しかし,同じ細胞を利用して蛍光測定を重ねていくにつれて,細胞応答のドリフトが顕著になり,応答パターン分離性能を制限する要因となっていた。より多くの匂い物質の識別・定量といった,さらに高度な匂いセンシングを行うために,匂い溶液の供給時間など測定手法の最適化やさらに洗練された信号処理手法を導入を検討する。 また,嗅覚受容体発現細胞を利用した気相中での匂い物質の検出を目指す。そのために,まずサンプルガスを液中に溶かし込むための計測チャンバを構築する。気液界面にはガス透過膜を利用し,さらにOdorant binding protein(OBP)を補助的に利用することで,匂い物質を嗅覚受容体への運搬する効率の向上を目指す。さらに,供給するガスフローの流速や計測チャンパ構造の最適化,OBPの濃度など測定実験条件の最適化を行い,気相中の匂いの測定ができるようにする。
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