研究実績の概要 |
縮環シクロブテンは4π電子環状反応によりcis,trans-シクロアルカジエンを平衡混合物として与えることが知られている。しかし、縮環する環の員数が小さい場合は高温条件においても電子環状反応成績体を与えないことが報告されている。本研究では4π電子環状反応により生じると考えられる微量のcis,trans-シクロアルカジエンのcis二重結合を化学選択的に反応させることで電子環状反応を非平衡化し、trans-シクロアルケンの合成を試みることとした。また、本反応がうまく機能すれば縮環シクロブテンの中心性不斉を面性不斉へと転写できると考えられる。 本戦略に従い、cis二重結合をエノールシリルエーテルとしフッ素による化学選択的な反応を行ったところ、生じたエノラートと系中の求電子剤との反応により、4級炭素を有するtrans-シクロアルケンが最大95%という高い収率で合成できた。また種々の基質や求電子剤も利用可能であり新たな合成法としての確立ができた。不斉炭素中心を有する面性不斉化合物の合成例は少なく新たなケミカルスペースの開拓につながると考えられる。 本結果は、これまで生じないとされていたcis,trans-シクロアルカジエンが50 ℃という低温ながらも微量に存在し、合成が困難とされるtrans-シクロアルケンの合成素子として、縮環シクロブテンが利用できることも示唆している。またtrans-シクロアルケンの不斉合成法は極限定的であるが、縮環シクロブテンの中心性不斉から面性不斉への不斉転写反応にも成功し、新たな合成法の提示に至った。現在これらの知見を活かし、面性不斉認識型反応の開発を行っている。
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