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2018 年度 実績報告書

リン脂質修復と生体膜ストレスによるアポトーシス誘導機構の解明

研究課題

研究課題/領域番号 17J10213
研究機関慶應義塾大学

研究代表者

鈴木 将貴  慶應義塾大学, 医学部, 特別研究員(PD)

研究期間 (年度) 2017-04-26 – 2020-03-31
キーワードD-セリン / Seryl-tRNA合成酵素
研究実績の概要

D-セリンはL-セリンに対して20-30%程度の量で存在し、神経伝達物質として機能することが確認されている。
L-セリンはタンパク質合成のみならずリン脂質や核酸の合成にも不可欠であるが、D-セリンが多く存在することが細胞の生存に悪影響を及ぼす可能性がある。そこで報告者は培養神経細胞にD-セリンを処理したところ、アポトーシスが誘導されることを確認した。D-セリンが脂質の合成に影響すると仮定し、さまざまな脂質合成酵素のmRNA発現を確認したが、特に大きな変動を認めなかった。
そこでD-セリンが誘導する細胞死メカニズムは脂質合成ではなく、むしろタンパク質合成へ影響しているのではないかと予想した。
タンパク質合成はアミノ酸をtRNAに結合し、リボソームがRNAの配列に合わせたアミノアシルtRNAを選択してアミノ酸を数珠状につなげていく。リボソームはtRNAとmRNAのコドンの相補性に基づいてアミノ酸を結合していくため、アミノアシルtRNAを合成する過程でアミノ酸とtRNAのマッチングを間違えると間違った配列のタンパク質が形成されてしまう。したがって正しいアミノ酸とtRNAの結合は細胞の生存には不可欠な要素である。
セリンはseryl-tRNA合成酵素(SARS)によりtRNAと結合する。SARSの変異は神経発達遅滞や小頭症などの神経疾患を引き起こすことが知られており、また、筋萎縮性側索硬化症の原因物質と言われるL-BMAAはSARSを阻害することから、SARSの機能障害が神経の発達や機能に影響していると考えられる。そこで本研究ではD-セリンがSARSの機能を阻害することで細胞死を誘導している可能性を検証した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

4: 遅れている

理由

L-セリンはSARSによりtRNAに結合してリボソームによるタンパク質合成の基質となる。SARSには細胞質で機能するSARS1とミトコンドリアで機能するSARS2の2種類が存在する。そこでまず細胞生存に必須のエネルギー産生を担うミトコンドリアタンパク質の合成に関与するSARS2に対し、D-セリンが影響するかを調べた。D-セリン処理後の培養神経細胞におけるミトコンドリアタンパク質Cytochrome B, NADH dehydrogenaseおよびATP synthetaseの発現をウェスタンブロットで確認したが、いずれのタンパク質も発現に大きな変化は認められなかった。
続いてSARS1に着目した。SARS1はセリンをtRNAに結合するのみならず、セレノシステインをtRNAに結合するのに必須の酵素である。セレノプロテインにはthioredoxinやglutathione peroxidase(Gpx)など活性酸素除去に必要なタンパク質が含まれる。そこでD-セリン処理後の培養神経細胞におけるセレノプロテインGpx4の発現をウェスタンブロットで確認したが、発現量に大きな変化は認められなかった。

今後の研究の推進方策

D-セリンはリン脂質の細胞死誘導機構に関与していると考えていたが、むしろタンパク質合成への影響が示唆される結果を得ている。
近年SARS1は転写因子と結合し核内で転写調節に寄与することが報告されている。SARS1が異常アミノアシルtRNAを認識し、転写を介して細胞死を誘導する可能性があると考えられる。そこでSARS1に着目し、まずD-セリンが正常なseryl-tRNAの合成を阻害するか否かを確認する。さらに、すでにプルダウン法で確認した約50kDaの結合タンパク質を同定し、転写因子との関連および細胞死への寄与を検討する予定である。

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公開日: 2019-12-27  

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