量子シーケンサーは、核酸配列、およびその頻度の網羅的解析の実現に高い潜在能力を持つ次々世代の単分子解析手法である。本研究は、量子シーケンサーによる「頻度解析が可能な核酸分子タグ」の創製に向け、核酸塩基の化学物性とトンネル電流の相関の理解に基づき正確に識別可能なヌクレオシド群の実現を目指すものである。前年度までに、トンネル電流強度と核酸塩基のHOMOレベルが高い相関関係にあることを見いだしている。本年度前半では、上記知見に基づき、高いトンネル電流を示し、高精度に同定可能な非天然核酸の設計を試みた。また後半では、分子タグとして利用可能な核酸分子ユニットの拡張のため、トンネル電流のより詳細な理解と分子設計指針の拡張を試みた。 第一に、高い電流強度を示す非天然核酸塩基の設計を試みた。具体的には、天然の核酸塩基骨格であるウラシルに広いπ共役系を有する芳香族環を導入することで、核酸塩基のHOMOレベルと金のフェルミ準位を近接するアプローチを試みた。そして、設計されたヌクレオシドが標準塩基に比べ高いトンネル電流強度を示し、正確に識別可能であることを明らかにした。 第二に、量子シーケンサーにより解読可能な分子ユニットの拡張に向けて、分子設計戦略の拡張を試みた。具体的には、トンネル電流特性を支配する新たな要素として金と核酸塩基の相互作用に着目し、金親和性基の導入によるトンネル電流特性の変調を試みた。その結果、本戦略によりトンネル電流強度を含め複数のトンネル電流特性を変調できる可能性を見いだした。また、以上の電流特性を多次元的に解析することにより、これまでにない高い精度で標準塩基、およびHOMOレベルをもとに開発された高導電性非天然核酸とも識別可能であるヌクレオシドを見出した。以上に結果は、「頻度解析が可能な核酸分子タグ」の創製に向け、正確に識別可能な非天然ヌクレオシド群を実現するものである。
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