研究課題/領域番号 |
17J10228
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
村越 爽人 早稲田大学, 理工学術院, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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キーワード | アフラスタチンA / ポリプロピオネート / ポリデオキシプロピオネート / ポリケチド骨格の短工程合成 / ポリケチド骨格の網羅的合成 |
研究実績の概要 |
申請者の研究テーマは鎖状ポリケチド構造を有するアフラスタチンAの全合成研究である。アフラスタチンAは29の不斉炭素原子と1259の分子量を有する巨大分子であるため、全合成を達成するためには、立体化学を効率的に構築する必要がある。申請者はこれらの立体化学のパターンを効率的かつ網羅的に構築する手法を確立し全合成を達成することを目的とし研究を遂行している。申請者は当該年度以前にポリオールの骨格を有するC22-C48位セグメントの合成を達成しており、研究実施計画ではC5'-C21位セグメントの合成を計画していた。しかし、テトラミン酸骨格に該当するC5'-C2位の部分が、合成途中で必要となる水素添加や、オレフィンの酸化開裂に耐えることができないことが分かったため、当該部位であるC5'-C2位のテトラミン酸骨格の構築を合成の終盤で行うこととし、C3-C21位のセグメントを合成する計画へと変更した。申請者は当該年度において、このC3-C21位セグメントの合成を達成した。このセグメントはデオキシプロピオネートやプロピオネートの骨格と14個の不斉炭素原子を有している。申請者はこれらの立体化学のパターンを、当研究室で開発された遠隔不斉誘導反応に続く、オレフィンの位置選択的かつ立体選択的酸化、還元反応の条件を見出すことで、効率的かつ網羅的に構築する手法を確立することに成功した。この手法は連続する立体化学のパターンを簡便に合成することが可能となり、他のポリケチド化合物の合成や、化合物ライブラリーの充足に貢献できる合成手法であると考えている。この手法を用いて、C3-C8位、C9-C15位、C16-C21位のセグメントを短工程で合成し、これらのセグメントを適切なカップリング条件で反応させることで、すべての立体化学の発現を選択的に行うことが可能なC3-C21位セグメントの合成経路の確立に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画では、アフラスタチンAのC5'-C21位セグメントの合成を行うことを計画していた。しかし、テトラミン酸骨格に該当するC5'-C2位の骨格が、全合成中に必要となる水素添加やオレフィンの酸化開裂の条件に耐えることができないことが、実際に反応条件に付すことによって分かった。そこで、申請者は該当するC5'-C2位の骨格を合成の終盤で構築することとし、C3-C21位セグメントの合成を行う計画に変更した。このセグメントの合成には、3つの合成課題があった。C8-C9位のジオールの立体化学の構築、C15位-C16位間のアルドール反応の立体選択性、C21位の水酸基をアルデヒドへと変換することの3つである。いずれも立体選択性が発現しないことや、収率が著しく低いことが問題であり、研究目的である効率的合成を実現させるためには解決しなければならない課題であった。申請者はこれら3つの課題に対して、合成経路の見直しや、基質を変更することにより解決し、高収率及び高立体選択的なC3-C21位セグメントの合成経路の確立に成功した。また、C3-C21位及びC22-C48位セグメント間のカップリングにも成功しており、全合成にはテトラミン酸骨格の構築と保護基の除去を行うのみという状況まで研究を進めることに成功した。また、全合成研究を学術論文に掲載する際には、合成した化合物の物性データを測定する必要がある。今まで合成してきた化合物の物性データも当該年度中におおむね測定が完了している。合成経路の進捗状況、及び物性データの測定を鑑みて、おおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
申請者はアフラスタチンAのC3-C21位セグメント及びC22-C48位セグメントの合成と、これら2つのセグメントのカップリングに成功している。2つのセグメントのカップリングはアルドール反応で行っている。様々な条件で反応の検討を行った結果、C-Hex2BClを用いたアルドール反応によって反応が進行することが確認できた。しかし、この条件ではジアステレオマー比が1:1と芳しくないため、検討を行うことを計画している。具体的には不斉素子を有するホウ素を用いたアルドール反応や向山型のアルドール反応を試みることを計画している。得られたC3-C48位セグメントはBn系の保護基を9個保有している。アフラスタチンAが有するC2-C3位の3置換オレフィンが、Bn基の脱保護条件である水素添加に耐えられないことがすでに分かっている。そのためオレフィンを構築する前に、Bn基を脱保護し、保護基の付け替えを行うことを計画している。すでにパールマン触媒を用いることで9個のBn系の保護基を除去できることが確認できているため、適切な保護の条件を見つけることで、この課題を解決することを計画している。その後、C5'-C2位の骨格を構築し脱保護を行うことでアフラスタチンAの全合成を達成することを計画している。C5'-C2位の骨格はアルデヒドに対して、3工程の反応を行うことで構築できることが確認できている。まず、すでに確立している条件で骨格を構築し、その後該当するテトラミン酸骨格のより効率的な合成手法の確立を検討することを計画している。アフラスタチンAは21個の水酸基を有しているため、脱保護後の単離精製が困難であることが予想される。そのため、逆相カラムクロマトグラフィーを用いて精製することを計画している。これらの課題を解決することでアフラスタチンAの全合成を達成する計画である。
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