研究課題/領域番号 |
17J10232
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研究機関 | 東京慈恵会医科大学 |
研究代表者 |
吉井 悠 東京慈恵会医科大学, 医学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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キーワード | バイオフィルム / 黄色ブドウ球菌 / Norgestimate |
研究実績の概要 |
黄色ブドウ球菌の増殖は阻害せずバイオフィルム形成を選択的に阻害するというコンセプトのもと,化合物ライブラリーを使用したスクリーニングによって取得された,黄色ブドウ球菌と表皮ブドウ球菌に対して,高いバイオフィルム形成阻害活性を示すnorgestimate(NGM)の作用機序解析および抗菌薬との併用効果の評価を行った. NGMは細胞外マトリクス構成成分である多糖とタンパク質の産生を抑制することで,複数の黄色ブドウ球菌臨床分離株に対し,高いバイオフィルム形成阻害活性を示すことを明らかにした(IC50:12 μM).さらにNGMが黄色ブドウ球菌のタンパク質合成に与える影響をプロテオーム解析により評価したところ,NGM存在下でバイオフィルム形成への関与が報告されている細胞壁アンカータンパク質surface protein Gやenolaseの発現が低下することが示された. また,これまでにNGMはβ-ラクタム系抗菌薬に対する黄色ブドウ球菌の感受性を向上させる効果を見出しており,その作用機序解析のために細胞壁合成への影響を透過電子顕微鏡観察により検討した.その結果,NGM存在下では細胞壁の肥厚化や異常な隔壁合成が認められた.さらに,細胞壁合成と分解に関連する遺伝子注目してトランスクリプトーム解析により評価した結果,細胞壁合成と分解に関与する複数の遺伝子の発現がNGM存在下で上昇することが明らかになった. 以上のことから,NGMは黄色ブドウ球菌のタンパク質発現プロファイルを変化させることでバイオフィルム形成を阻害し,細胞壁の恒常性に影響を及ぼすことでβ-ラクタム系抗菌薬高感受性化を誘導することが示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
経口避妊薬として臨床的に使用されているプロゲスチンの一種である,Norgestimate(NGM)が黄色ブドウ球菌のバイオフィルム形成を阻害することを見出しており,本年度はNGMの作用機序の解析について取り組んだ.その結果,NGMはバイオフィルムの構成成分である細胞外マトリクス内の多糖とタンパク質の量を減少させることを明らかとした.またプロテオーム解析の結果,NGMはバイオフィルム形成への関与が報告されている enolase と SasG の発現を抑制することが明らかとした.さらに驚くべきことに,NGMは細胞壁の恒常性の破綻を引き起こし,β-ラクタム系抗菌薬に対する黄色ブドウ球菌の感受性を向上させる効果を見出した.本研究は既存薬にバイオフィルム形成阻害という新たな活性が見出された点においても意義が大きい.さらに,細胞外多糖の産生抑制や細胞壁の恒常性破綻など,分子メカニズムの一端を明らかにすることができた.また,バイオフィルム形成阻害活性と抗菌薬に対する感受性向上という効果を持ち合わせた化合物の報告例は今までになく,本研究が与えるインパクトは大きい.以上のことから,本研究課題は概ね順調に進展していると考えられた.
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今後の研究の推進方策 |
Norgestimate(NGM)は細胞壁合成・分解関連遺伝子(pbp2,femA,atl,isaA,lytM)の発現を亢進させ,細胞壁恒常性破綻を引き起こしていると推察される.そこで,これら細胞壁関連遺伝子の過剰発現株を作製し,バイオフィルム形成能,細胞外多糖などの産生に及ぼす影響を解析する.また,各細胞壁関連タンパク質をmCherry融合タンパク質として発現させ,蛍光ラベル化ペニシリンを用いてβ-ラクタム系抗菌薬と細胞壁関連タンパク質の蛍光二重標識を行うことで,NGMによるβ-ラクタム系抗菌薬高感受性化メカニズムの解明に迫る. さらに,in vivoバイオフィルム感染症モデルを用いて、NGMの有効性評価を行う.ラットに小児用皮下埋め込み型中心静脈ポートを挿入しバイオフィルム感染モデルを作製する.ラットにNGMを経静脈的投与および非投与下で黄色ブドウ球菌生物発光株 Xen36(Caliper Life Science)をポート感染させる.発光イメージングシステムを用いて,NGMによるバイオフィルム形成阻害効果を経時的に評価する.ラットを安楽死後,ポートや各臓器を回収して細菌量を評価する.これまでの研究よりNorgestimateは黄色ブドウ球菌のβ-ラクタム系抗菌薬の感受性を向上させることを見出しており,代表的なβ-ラクタム系抗菌薬であるアンピシリンやイミペネムとの併用下についても同様の検討を行う.
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