研究課題/領域番号 |
17J10252
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研究機関 | 東京慈恵会医科大学 |
研究代表者 |
市村 秀俊 東京慈恵会医科大学, 医学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | ネッタイシマカ / 吸血宿主嗜好性 / 馴化 / 腸内細菌叢 / 脳腸相関 |
研究実績の概要 |
本研究では、デング熱の主要な媒介者であるネッタイシマカへ複数種の吸血動物を独立に与えて継代し、様々な吸血宿主への短期馴化現象を人工的に誘導することで、蚊の吸血宿主嗜好性が備える可塑性の分子基盤解明を目指している。 平成29年度の研究から、5世代に渡る吸血宿主馴化誘導後に未吸血、すなわち吸血対象を探索している成虫(♀)の頭部において(1)ネッタイシマカと同じ双翅目のモデル生物であるキイロショウジョウバエにおいて嗅覚学習や神経回路形成への関与が示唆されている遺伝子、(2)抗細菌免疫機能への関与が予測される遺伝子の馴化誘導群間における発現変動がそれぞれ見出された。そこで、平成30年度は(1)嗅覚学習・神経回路形成関連遺伝子ノックアウト系統の作出、(2)人工標的を用いた蚊の吸血宿主嗜好性評価系開発、(3)吸血宿主馴化誘導後の中腸内細菌叢解析と系統間比較をそれぞれ試みた。 各種ノックアウト系統についてはCRISPR/Cas9システムを用いて作出を試みたがいまだ作出できておらず、現在も進行中である。人工標的を用いた蚊の吸血評価系開発については、評価に使用する動物の新規導入および動物実験実施許可の取得、評価に使用する動物嗜好性が強いネッタイシマカ系統の導入と当研究室内での安定した継代・維持に至り、実験系評価の準備が全て整った。また、吸血宿主馴化誘導後の中腸内細菌叢解析ではほぼ全ての馴化誘導群で蚊の常在細菌であるElizabethkingia属細菌の優占が認められたが、ニワトリにより継代した群ではElizabethkingia属細菌の消失と酢酸菌群およびSerratia属細菌の優占が認められた。腸内細菌が宿主の行動に及ぼす影響は脊椎動物だけでなく非脊椎動物においても注目されつつあり、今後の研究への切り口となる結果が得られたと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
嗅覚学習・神経回路形成関連遺伝子ノックアウト系統はいずれも作出に至っておらず当初の計画よりも遅れが見られる。また、人工標的を用いた吸血宿主嗜好性の評価系開発においては、新規動物実験実施許可の取得、並びに開発に使用する動物嗜好性が強いネッタイシマカ系統の安定した継代・維持へ至るまでに想定以上の時間を要した。一方、吸血宿主馴化誘導後の中腸内細菌叢解析の結果から、申請当初には予想していなかった方向で研究の進展が認められた。これらの状況を総合し、計画全体の進捗としてはやや遅れていると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
人工標的を用いた吸血宿主嗜好性評価系開発は使用する材料および動物実験実施許可が全て整ったため、引き続き人工標的の評価を実施し実験系の確立を目指す。嗅覚学習・神経回路形成関連遺伝子については、それぞれのノックアウト系統作出並びに機能解析を継続して試みる。また、蚊の吸血宿主嗜好性における経世代的な変化にはエピジェネティックな機構の関与が予想されるため、ヒストンの修飾様態や修飾関連酵素の機能についても検討・解析を進める。 近年、特定の中腸内細菌が糖代謝を介してショウジョウバエの行動量を変化させることが報告された。このことから、吸血源の変化がヤブ蚊の中腸内細菌叢変化を誘導し、最終的にヤブ蚊の行動を変化させることが予想される。蚊に限らず腸内細菌叢の構成は確率的変動が大きいことが知られているため、短期吸血宿主馴化現象を再度人工的に誘導することで蚊の中腸内細菌叢の変化をより詳細に捉えるとともに、中腸内の優占細菌単離や各馴化誘導群における上記評価系を用いた吸血宿主嗜好性解析などを複合的に行う。 また、線虫における老化や感染に伴うシナプスの変化に抗細菌ペプチドとアミノ酸配列が類似するタンパク質の関与が報告されており、平成29年度に見出された抗細菌免疫関連遺伝子が神経回路の可塑性、引いては吸血宿主嗜好性の変化に寄与する可能性が高い。そこで、ネッタイシマカのトランスジェニック系統を作出し、脳内の抗細菌免疫関連遺伝子の局在と神経を併せて可視化することで、線虫と同様の可塑的な機構がネッタイシマカの脳内に存在するか否かの検討も目指す。
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