本研究では、これまでに開拓されていなかったオルトキノン化合物を利用し、スイッチング特性や光学特性、新規金属錯体を見出し、新たな技術、材料としてオルトキノン化合物の有用性を見出すことを目的としている。そのアプローチの1つとしてオルトキノン含有多環芳香族化合物の配位能を利用し、錯体合成を行う計画を立てている。その際に、オルトキノン含有多環芳香族化合物から新規カチオン種・ラジカル種の創製に成功した。 まず、オルトキノン部位のカルボニル基を足掛かりとして通常取り扱うことの難しいα‐ケトカルベニウムイオンを生成させた。オルトキノン含有多環芳香族化合物に硫酸を添加したところ、溶液が黄色から青色へと劇的に変化した。UV-Visスペクトルを測定した結果、200 nmの大幅な長波長シフトが観測された。本UV-Visスペクトルは、Gaussian09を用いて見積もった結果とよい一致を示したことから、α‐ケトカルベニウムイオンの生成が支持された。さらに、基質検討の結果、定量的にカチオン種を生成するためには5つのベンゼン環の縮環に相当する共役系が必要であり、直線型の縮環形式よりもフェナセン型(ジグザグ型)の縮環形式を有している方がカチオン種を安定化することが示唆された。 一方で、オルトキノン含有多環芳香族化合物に光照射下でルイス酸である三フッ化ホウ素・ジエチルエーテルを添加した結果、深緑色の針状結晶を取り出すことができた。本化合物のX線結晶構造解析とESRスペクトル測定の結果、環状ホウ素ラジカルの生成が確認された。本化合物は、室温、空気下で1年以上安定に保存可能であり、半導体特性を有してした。本ラジカル種は今後、半導体材料としての利用に期待がもてる。 以上より、オルトキノン含有多環芳香族化合物を用いて新たな材料として期待される新規カチオン種・ラジカル種の合成に成功した。
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