研究課題/領域番号 |
17J10359
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
Ko Seongjae 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 高電圧 / リチウムイオン電池 / 炭素導電助剤 / アニオン挿入 |
研究実績の概要 |
二次電池の高エネルギー密度化に向け、既存リチウムイオン電池より高い作動電圧を有する次世代電池の開発が行われている。しかし、正極側が強酸化雰囲気となるため、電解液や電池部材の劣化が激しく起こる。特に、正極中の炭素導電助剤の劣化は電池の安定作動を妨げると報告されているものの、詳しいメカニズムは明らかにされていない。本研究では、5 V級電池の実用化に向け炭素導電助剤の劣化要因を調べることを目的とする。 炭素導電助剤を不活性雰囲気下で600-2000 ℃で熱処理し、表面酸素官能基量と黒鉛化度の異なるサンプルを得た。これらの炭素導電助剤サンプルを作用極(導電助剤/バインダー(1/1,w/w))とし、昨年度に見出された高酸化安定性を有する高濃度電解液 6 M LiBF4/ジメチルカーボネート 中において、酸化電流によるクロノアンペロメトリーを行った。その結果、1200 ℃までの熱処理によって、酸化反応に起因する電気量の減少が確認された。これは、熱処理によって活性サイトとなる表面酸素官能基が除去され、電解液との反応が抑制されたためである。一方、1500 ℃以上の温度で熱処理を行った場合、急激な酸化電気量の増加傾向が認められ、表面酸素官能基以外にも黒鉛化度が酸化反応に大きな影響を与えていることが示唆された。1500 ℃以上では黒鉛化が進行し、4.8 V以上の電位において電解液中に存在するリチウム塩の対アニオン(BF4-)が黒鉛状層間に挿入する反応が起こることが確認された。対アニオンの挿入は黒鉛状層間を大きく拡張し、炭素導電助剤の構造を破壊するため、新たな活性サイトが出現することにより更なる酸化反応を引き起こすと考えられる。以上より、炭素導電助剤の表面官能基量の制御に加え、黒鉛状層間への対アニオンの挿入の抑制が、高電圧リチウムイオン電池の可逆作動において必須となることが見いだされた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究1年目において、次世代5V級リチウムイオン電池の実用化にむけた高酸化耐性の新規高濃度電解液の開発に成功した。 研究2年目において、電解液以外の各種電池部材の副反応に着目し、多角度な検討を行った結果、強酸化雰囲気における炭素導電助剤の劣化メカニズムを明らかにし、熱処理温度の最適化を通した不可逆反応の抑制に成功した。
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今後の研究の推進方策 |
高黒鉛化度の炭素導電助剤が活用できる新規機能性電解液を開発する。高電位機能性正極材料は導電性が低いため、電極の導電ネットワークを緻密に形成することが重要である。しかしながら、高黒鉛化度の炭素導電助剤は高電位下でアニオン挿入反応を起こすことから、電池劣化の直接的な原因になる。この問題を解決する方法として、アニオン挿入反応と電解液の溶液構造との関係を調べることで、電極劣化を抑える新規機能性電解液設計を検討する。見いだされた知見に基づき、5 V級リチウムイオン電池の安定充放電を達成する。
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