研究課題/領域番号 |
17J10444
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
伊藤 峻一郎 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 13族元素錯体 / ジイミン錯体 / 固体発光性 |
研究実績の概要 |
発光性アルミニウム錯体は、有機ELデバイスの発光層や電子輸送層としての応用がなされており、極めて重要な分子群である。しかし、これらの錯体は一般的な有機分子と同様に、溶液状態に比べて固体状態ではその発光効率が低下するという問題点を有している。一方、本研究員の所属する研究室ではこれまでに、アルミニウムと同じ13族元素である、ホウ素やガリウムを中心金属として用いたジイミン錯体が、溶液状態よりも固体状態において高効率に発光するという現象を見出してきた。これらの背景を踏まえ、本研究員は今年度、以下の研究課題に取り組んだ。 本研究では、固体発光性アルミニウム錯体を合成することを目的とした。ジイミン配位子を用いることにより、他の13族元素と同様に、固体状態における高効率発光を実現できると考え、アルキルアルミニウム錯体を設計し、合成した。発光スペクトル測定の結果、この錯体は室温においては溶液・固体ともほとんど発光を示さないことが明らかとなった。 この原因を考察するため、量子化学計算を行った。その結果、この錯体は、一重項励起状態においてアルミニウム-炭素結合の伸長を伴う構造緩和を起こすことが示唆された。この構造緩和の結果得られた励起状態における再安定構造は、発光を示さない構造であると示唆された。さらに、詳細な解析を行ったところ、先の構造緩和は、電気陰性度の差が小さいアルミニウム-炭素間の結合の特性に由来することが示唆された。 そこで、アルミニウム上により電気陰性度が大きいハロゲンを導入することで固体発光性が得られると考え、一連のハロゲン化アルミニウム錯体を合成した。各種光学測定により、これらの錯体は室温・固体状態で高効率の発光を示すことが明らかとなり、分子設計の妥当性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
一般に、後周期13族元素錯体は不安定であることが多い。当初の計画では、初年度において各種13族元素錯体を合成し、それらの安定性を評価することで、安定で光学特性評価が可能な分子設計を確立することを主たる目的としていた。今回、実際に合成した錯体は、空気中でも光学特性を失わないほどに安定であり、その物性評価まで達成することができた。さらに、得られた錯体の中には、当初は2年目以降における達成目標であった、室温燐光特性を発現するものもあり、極めて良い進捗を見ている。これに加え、スーパーコンピュータを用いた理論計算手法を駆使することで、当初予想していなかった特異な光化学過程を明らかにするとともに、その過程を制御し、固体発光材料を創出する上で重要な分子設計指針を得ることにも成功した。 一方、他の研究計画に示した研究課題についても、大きな進捗を得ることができた。ホウ素錯体への置換基の導入により、溶媒蒸気に対する極めて鋭敏な刺激応答性発光を示す分子を合成することに成功した。これは、当初予定した分子間相互作用の制御によるものであり、研究計画の妥当性を強く示すものであると考えられる。 さらに、他の系においては、非中心対称性の結晶構造を有する分子を合成することにも成功し、二次高調波発生という、特有の物性を発現させることにも成功した。これは当初3年目において発現を目指した物性であり、本研究の著しい進展を示していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
後周期13族元素としてのアルミニウムを用いた錯体の安定化およびその発光特性の評価、制御には一定の成功を見たが、より後周期のガリウム・インジウムに関しては依然として未解明な部分が多い。今後、これらの元素を含む錯体の合成並びに物性評価に取り組んでいく。さらに、高分子材料への展開を志向した、新規重合条件の確立にも精力的に取り組んでいく。 分子間相互作用を変化させることによる分子の高次構造の制御およびその刺激応答特性に由来する発光特性の変化は、本年度の内に部分的に達成することができた。今後この概念をより一般化することで、より高機能な固体発光性材料の創出を目指す。 圧電性・焦電性を有する分子材料の合成には成功しているが、それらと光学特性との複合的物性は依然として観測できていない。そのため、今後、より周辺環境に影響して光学特性を変化しうる系を探索し、その刺激応答性を評価していく。 これらに加え、当初の計画よりも良い進捗を見せていることから、本年度得られた知見を活かし、より高度な分子材料開発にも取り組む。すなわち、13族元素錯体の発光特性制御における、原子間の結合特性の重要性が明らかとなり、励起状態のダイナミクスの制御も可能になりつつある。これを利用することで、新たな重合反応の開発や、新規光機能の創出につなげる。
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