研究課題/領域番号 |
17J10474
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
成川 達也 東京大学, 宇宙線研究所, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 重力波 / 連星中性子星 / データ解析 / 重力理論 / KAGRA |
研究実績の概要 |
本研究の目的は, 重力波検出器の国際ネットワーク時代における(A)コンパクト連星合体の形成史の解明および(B)強い重力場における新物理学の探究に大別される. (A): 重力波イベントの可視光・赤外線対応天体をターゲットとする小口径望遠鏡によるフォローアップ観測の最適な戦略を2台検出器によって検出された場合に議論し, 学術論文にまとめ, 国際会議で発表した. 2台重力波検出器で推定された重力波天体の天球位置の事後確率分布は一般的に幅広く広がってしまう. 小口径望遠鏡にとっては, 2台重力波検出器の推定領域のうち, 確率が低いとしても近傍領域を探索することがより有益なことがある. 我々は, LIGOのO1中に検出されたイベントデータを再解析し, 距離パラメータの事前分布を近傍領域に制限することによって推定された天球位置の事後分布が, そのような制限なしに推定された天球位置と異なることを示した. (B): 有質量重力子理論のあるクラスである双重力理論をLIGO-Virgoの重力波イベントデータを用いて検証し, 学会発表した. 双重力理論では, “普通の”質量ゼロの重力子に加えて, “隠れた”有質量の重力子が存在する. この理論では, ニュートリノ振動のように, 2種類の重力子が伝播中に状態間を振動する. 宇宙の加速膨張モデルとしても研究されているモデルに新しい制限を加えた. 状態方程式は潮汐変形パラメータによって特徴づけられる. 京都数値相対論グループによる連星中性子星合体の高精度シミュレーション波形をテンプレートとして, GW170817を再解析し, シンポジウムで発表した. LIGO-VirgoのO3へのKAGRAの参加に向けて, 必要感度や期待されるサイエンスを見積もった. これらは近い将来の重力波検出器の国際ネットワークによる観測と深く関連した重要な成果である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに, 重力波による一般相対論の検証や中性子星の状態方程式の制限などを, LIGOの実際のデータも用いながら行っている. その研究内容は重力波物理学天文学の最先端のものである. まずLIGOの重力波データから重力波源のパラメータを推定するパイプラインの使用方法について熟知し, そして様々な問題へと適用して順調に研究を進めている. LIGOイベントに対する小口径望遠鏡によるフォローアップ観測の戦略を考察し, 論文にまとめ, 国際会議で発表した. 双重力理論の検証をLIGO-Virgo重力波イベントに対して行い, 学会発表し, 現在論文にまとめている. 連星中性子星合体からの重力波GW170817の検出は当初予期していないことであったが, そのデータ解析を行った. 高精度数値相対論シミュレーションの知見を用いた, 中性子星の高密度状態方程式をLIGOの最新のデータに適用して制限する研究を行い, シンポジウムでステータストークとして報告した. 現在論文にまとめている. 重力波検出器の国際ネットワークへのKAGRAの参加が急がれるなか, その貢献を調べることも重要である. KAGRAがLIGO-Virgoの第3回観測運転(O3)に参加するために必要とされる感度を見積もるために, 位置推定などのサイエンスへの貢献を調べ, KAGRAプロジェクトへも貢献している. LIGO-Virgoへのメッセージとして結果をまとめている. 以上のように本研究課題の進捗状況について, おおむね順調に進展していると判断する.
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今後の研究の推進方策 |
今後, 本研究の研究目的である, 重力波検出器の国際ネットワーク時代における(A)コンパクト連星合体の形成史の解明および(B)強い重力場における新物理学の探究に対して, 以下の研究の推進方策を考えている. 研究目的(A): コンパクト連星合体形成史に対して, 位置推定の高速化および重力波天体と銀河分布との相互相関によって解明に迫る. また, 連星中性子星合体からの重力波GW170817の検出を受けて, 中性子星の高密度状態方程式の探究に精力を注いでいく. GW170817の解析によって, インスパイラル期に対応する1000Hz以下の低周波数領域だけでなく合体期に対応する高周波数領域まで有効な重力波波形が重要であるという示唆が得られた. これに動機づけられて, 数値相対論グループとの共同研究によって重力波波形を作成し, それを用いて重力波データ解析から中性子星の状態方程式の制限を効率良く行う方法を考案し, 解析パイプラインを構築する計画である. 研究目的(B): 強重力場における新物理学の探究のため, あらゆる修正重力モデルを包含した一般的な枠組みにおいて, 重力波の余剰偏極モードを導出する. そして, LIGO-Virgo-KAGRAからなる国際ネットワークにおける制限を探究するためのパイプラインを構築する計画である. また最近, 量子重力理論などの研究によると, ブラックホールの地平線はファイアーウォールという壁のようになっているという可能性が提案されている. その壁は重力波を反射させるかもしれない. 連星ブラックホール合体後に発生した重力波が, この壁によって反射され, ホライズンの外にあるポテンシャルとの間で何度も往復しながら徐々に遠方に抜け出ていくと予言されている. その重力波エコーをテンプレート波形に用いて, データ解析から制限を与えていく.
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