研究実績の概要 |
本研究の目的は, 重力波検出器の国際ネットワーク時代における (A) コンパクト連星合体の形成史の解明および (B) 強い重力場における新物理学の探究に大別される. 研究目的 (A) 連星中性子星合体重力波GW170817の詳細な再解析を主導して行った. Hanford検出器とLivingston検出器との潮汐変形率の推定結果に食い違いを発見した. また, Livingston検出器の解析に用いる高周波数カットオフを変化させることで, 高周波数帯のデータが潮汐変形率の情報をあまり持っていないことを指摘した. これらの成果を日本物理学会やWorkshop on Gravitation and Cosmologyで発表した. また, 2018年12月から2019年1月まで2ヶ月間, LIGO-Virgo Collaboration (LVC) の連星合体重力波グループの拠点のひとつであるオランダのNikhef重力波グループに滞在し, LVCの重力理論の検証のチェアーであるChris van den Broeck等との共同研究を開始している. 研究目的 (B) 有質量スカラー場モデルの検証を行った. 連星合体重力波のインスパイラル前期における有質量スカラー場による修正は連星パルサーの電波観測によって強く制限されている. 近い将来, インスパイラル後期におけるシグナル-ノイズ比が大きな重力波の観測が期待される. 我々は, インスパイラル後期から重力波波形に修正が現れるようなスカラー場の質量範囲に着目し, 現象論的モデルを構築し, 制限を調べている. 論文を執筆中である. また, 重力波エコー信号の探索を行い, 論文を執筆中である. 重力波エコー信号に対するバックグランドを見積もり, 統計的優位性を調べている. 重力理論の量子補正への示唆を得ることを目指している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに, 重力波データ解析によって, 一般相対論の検証や中性子星の状態方程式の制限などを, LIGO-Virgo重力波イベントの実データを解析することによって行っている. LIGOの重力波データから重力波源のパラメータを推定するデータ解析パイプライン (LALInference)の使用方法について熟知し, 様々な研究対象へと適用している. 研究の幅を広げるため, 京大天体核研究室に異動し, 重力波天体物理学の知識を深め, オランダのNikhef研究所に2ヶ月間滞在し, 共同研究を開始し, 重力波データ解析の理解を深めた. 連星中性子星合体重力波GW170817の詳細な再解析により, Hanford検出器とLivingston検出器との潮汐変形率の推定結果に違いを発見し, Livingston検出器の高周波数帯のデータが潮汐変形率の情報をあまり持っていないことを指摘したことは重要である. この結果を学会発表し, 現在雑誌に投稿中である. 重力波検出器の国際ネットワークへのKAGRAの参加に向けて, その貢献を調べることも重要である. KAGRAの将来検出器構成を決定するために, リングダウン解析の観点から感度比較を見積もり, サイエンスへの貢献を調べ, KAGRAプロジェクトへも大きな貢献をしている. KAGRA Collaborationへの提案として結果をまとめた. 以上のように本研究課題の進捗状況について, おおむね順調に進展していると判断する.
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今後の研究の推進方策 |
今後, 本研究の研究目的である, 重力波検出器の国際ネットワーク時代における(A)コンパクト連星合体の形成史の解明および(B)強い重力場における新物理学の探究に対して, 以下の研究の推進方策を考えている. 研究目的(A): 連星中性子星合体から放出された重力波GW170817および将来イベントを詳細に解析することで, 潮汐変形率パラメータへの制限の新手法を開発する. 潮汐変形率から中性子星の高密度状態方程式の情報を引き出す. また, ブラックホール-中性子星連星合体重力波の解析から中性子星の状態方程式の情報を得る手法を考案する. より詳細には, 連星中性子星合体重力波GW170817の解析によって, 潮汐変形率を推定して状態方程式モデルを選別するには, インスパイラル期に対応する低周波数領域だけなく合体期および合体後に対応する高周波数領域まで有効な重力波波形が重要であるという示唆が得られた. これに動機づけられて, 数値相対論グループとの共同研究によって高周波数領域まで有効な連星中性子星合体の重力波波形を作成する. その重力波波形を用いてデータ解析から中性子星の状態方程式の情報を少ないバイアスで引き出す方法を考案する計画である. 最新の数値相対論で較正された波形モデルを用いてバイアスの少ない結果を得る. ブラックホール-中性子星連星合体重力波で重要となるスピン歳差効果を取り扱える波形を作成する. 研究目的(B): 強い重力場における新物理学の探究のため, これまで調べられていない新しいタイプの一般相対論の修正の可能性の探求を行う. 有質量スカラー場モデルの検証や, 重力の量子効果のスモーキングガンとなりうる重力波エコーの解析や, 修正重力模型の遮蔽機構を考慮した重力波解析の研究を行う.
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