研究課題/領域番号 |
17J10569
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
村津 蘭 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 宗教人類学 / 医療人類学 / 映像人類学 / 妖術師 / 多元的医療行動 / 治癒 |
研究実績の概要 |
本年度は、これまでの研究成果を様々な機会で発表し、理論的発展のために議論してきた。まず、4月に行われたフランスの民族誌映画祭(Ethnogra film festival)と、9月に行われた北欧人類学映画学会(NAFA)で、ヴォドゥンの在来信仰について撮影した拙作「Tohossou」を上映され、会場の人々と意見を交換した。また、6月に日本文化人類学会で、これまでベナンのペンテコステ的教会の悪魔祓いによる治療についてまとめた口頭発表「悪魔の憑依による妖術師の具現化- ベナン南部の新教会の悪魔祓いを事例に-」を行い議論した。さらに、7月には国際民族学人類学連合学会(IUAES)において、新教会の女性の信徒が治癒経験について考察した口頭発表「Sickness “Provoked”: Narratives and Practices in Therapeutic Itineraries in Biomedical Hospitals and Neo Pentecostal Churches in Southern Benin」を行った。更に、民俗文化概念として病に密接な関係がある霊的な諸力が、どのように主体として現実性を持ちうるのかを、感覚を媒介として示した映像インスタレーション、及び展示インスタレーションを、京都市立芸術大学ギャラリーアクアで6月2日~7月8日に実施した。 ベナンにおけるフィールド調査は2019年12月から2020年3月にかけて行い、新宗教における治療儀礼で、信者が治癒するプロセスと憑依の様態の関与を明らかにするために、参与観察、及び信者に対する聞き取りを行った。また、経済首都コトヌーにおける大学病院において、医療従事者の霊的諸力に対する感覚を理解するため、聞き取り調査を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの調査では、宗教的治療において、信者の多元的医療行動に注目し、その中でなぜ「治癒」という状態が起こるのかに焦点をあて調査してきた。近代的医療との関連も調査しているが、むしろ宗教的治療の中で起こる感覚の方が、「患者」の「治癒」に大きく影響していることが明らかになってきたため、近代的医療よりも宗教的治療に調査の重点をシフトしている。その中で「妖術師」という概念が、いかに身体的な感覚に変化をもたらし、治癒につながっているかを明らかにするなど、「アフリカにおいて近代的医療が広がる中で、なぜ霊的な治療も拡大しているのか」という理由について一定の答えが出つつある。また、研究の感覚的民族誌である映画やインスタレーションも、映画祭での上映やギャラリーでの発表するなど成果を出せている。よって、研究はおおむね順調に進展しているといえるだろう。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究は、今までのフィールドにおける研究データをまとめ理論化し、博士論文を執筆する方向で進める。まず、医療人類学や、文化人類学の国際的潮流を捉え、理論化に活かしていくために、ウィーン大学の社会学・人類学研究所で発表を行い、またセミナーなどに参加することで理論的に発展させることを考えている。また、宗教人類学の悪魔祓いを専門にしている研究者のフィールド調査に同行することで、宗教人類学全体として俯瞰し、比較の視点を成果に取り入れていく。 ベナンにおいては、1ヶ月の調査を行い、研究をまとめるにあたって必要な捕捉データなどを取得していく。その後、感覚・身体、医療・宗教・映像人類学についての先行文献をまとめ、本研究の成果を理論的に位置づけながら、博士論文にまとめたいと考えている。
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