私たちの体は、心臓が左にあり肝臓が右にある。この、"体の左側と右側の違い" は、初期胚に一過的に現れる "ノード" というくぼんだ部位から始まる。この、ノードの細胞に生えている小さな毛 "ノード不動繊毛が" 体の左右軸を決定する最初のシグナルを生み出すことが解っている。 しかし、このノード不動繊毛がどのように活性化されているかよくわかっていない。現在最も受け入れられている仮説は、ノード不動繊毛がメカノセンサーである。すなわち、繊毛が受動的な変形を受けることによって活性化されるという説だ。しかし、これまで繊毛が小さすぎて直接変形を与えることが難しかった。
そこで、本研究では、2018年にノーベル物理学賞を受賞した光ピンセットという技術を用いて、実際にこの小さな小さな毛を直接触ることのできる顕微鏡を世界で初めて開発した。この顕微鏡で、ノード不動繊毛を1秒間に10回という速さで振動させると、2~3試行に1回ほどの割合で、繊毛の中のカルシウム濃度が上昇することを明らかにした。これは、ノード不動繊毛がメカノセンサーであるという仮説を支持している。我々はこの研究内容に関して、複数の学会で発表を行った。 しかし、ノード不動繊毛が具体的にどのような変形を感知しているのか。そして、実際の生体内でそのような刺激によって左右非対称性が生まれるのか、といったことはまだよくわからない。我々は今後数年間かけて厳密な検証を行ってゆく。
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