研究課題/領域番号 |
17J10586
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
櫻井 駿也 東京大学, 薬学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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キーワード | 動物細胞を用いた発現確認 / 熱安定性向上変異体 / 結晶構造解析 |
研究実績の概要 |
本研究ではダイオキシン受容体(Aryl hydrocarbon receptor, AHR)についてリガンドの詳細な認識機構及び一連の転写制御機構の解明を目指し、構造生物学的な研究を行っている。具体的にはAHRの細胞質での複合体であるAHR/Hsp90/XAP2/p23の四者複合体について、また転写活性化複合体に関してAHR/ARNT/リガンド/DNA複合体やさらにCBP/p300、pCIP、SRC1など各種コアクチベータが結合した複合体について構造情報を取得することを目的としている。 本年度において、まず細胞質での複合体であるAHR/Hsp90/XAP2/p23についてはHEK293細胞を用いてそれぞれの全長体単独での発現を確認した。また、大腸菌を用いて発現させたAHRの部分領域体と昆虫細胞Sf9を用いて発現させたHsp90全長体についてプルダウンによる結合を確認した。 転写活性化複合体についてはAHR/ARNT/リガンド/DNA複合体の結晶化について検討を行った。AHR、ARNTに変異を導入することで熱安定性を向上させる検討を行った。その結果、AHRについて12か所、ARNTについて4か所熱安定性が向上する変異を見出した。これらの変異を導入したコンストラクトについて高純度サンプルを調製し、結晶化スクリーニングを行った。 AHRの一連の転写制御機構解明に向けて、AHRによって発現が誘導され、AHRの転写活性を抑制する因子であるAHRR(AHR repressor)についても研究を行っている。転写抑制複合体であるAHRR/ARNTについて結晶構造解析に成功しており、その結果について筆頭著者として原著論文を発表した(Sakurai et al., J Biol Chem., 2017)。この結果はAHRRによるAHRの転写抑制機構の構造基盤となるものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
細胞質での複合体であるAHR/Hsp90/XAP2/p23の四者複合体についてはそれぞれの発現を確認できている。また、AHRとHsp90の結合が確認できている。今後、このAHR/Hsp90複合について高純度サンプルを調製するとともに、他の因子(XAP2及びp23)との結合を確認し、高純度サンプルを調製することで、細胞質での複合体構造解析を行うことができると考えている。 転写活性化複合体AHR/ARNT/リガンド/DNAについては大きく進展したと考えている。AHR/ARNTは熱安定性が低く、それが結晶化を妨げている可能性がある。本年度の研究によってAHR/ARNTの熱安定性向上変異を見出すことができ、結晶化の可能性を上昇させることができた。 また、本年度は転写抑制複合体AHRR/ARNTの結晶構造を世界で初めて発表した(Sakurai et al., J Biol Chem., 2017)。この成果はAHRRによるAHRの転写抑制機構の構造基盤となるものであり、今後のAHR研究に対する貢献が大きく、特筆すべき点であると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
AHR/Hsp90/XAP2/p23複合体については、現時点でHEK293細胞によってそれぞれ全長体での発現に成功しているが、複合体の形成は確認できていない。今後、発現条件やバッファー条件、タンパク質濃度などを検討し、複合体を調製する。また、大腸菌、Sf9を用いて発現させたAHR/Hsp90複合体ついては今後高純度サンプルの調製法を検討するとともに、XAP2やp23との結合確認を行う。AHR/Hsp90/XAP2/p23複合体試料が得られ次第、結晶化スクリーニングを行うとともに、ネガティブ染色電顕画像を取得する。試料の状態を確認し、試料調製法にフィードバックする。十分な質の複合体試料が得られたらクライオ電顕解析を行う。 AHR/ARNT/リガンド/DNA複合体については結晶化スクリーニングを行うとともに、クライオ電子顕微鏡による構造解析を行う。現在ネガティブ染色電顕画像を取得しており、分子量相当の粒子を観察できている。今後クライオ電顕解析による高分解能画像の取得を行う予定である。また、PAtagシステムを活用した結晶化を検討する。PAtagシステムは12残基からなるPAペプチドとその抗体NZ-1を用いたタグシステムである。PAtagシステムの特徴として、非常に高い親和性と特異性を持つこと、PAペプチドがβターン構造をとることが挙げられる。これらの特徴を生かし、AHR、ARNTに多数存在するβターンまたはループ領域にPAtagを挿入し、NZ-1 Fabとの複合体での結晶化を検討する。NZ-1との複合体についても結晶化だけでなくクライオ電顕による構造解析を並行して行う予定である。 CBP/p300、pCIP、SRC1などの各種コアクチベータが結合した転写活性化複合体については、HEK293細胞を用いた共発現により複合体調製を試みる。これについても複合体試料が得られ次第、ネガティブ染色電顕画像取得とそれに続くクライオ電顕解析を行う。
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