2019年度は主に以下の2項目について研究を行った。 第一に、nonprimitiveな格子において空間反転対称性を加えた際の、映進対称性を有する系で実現されるトポロジカル結晶絶縁体相の基礎理論を構築した。空間反転対称性を加えたnonprimitiveな格子において、このトポロジカル相のZ2トポロジカル不変量の表式を書き換えられることを見出し、その表式を2つの方法で導き、両方の表式が完全に一致することを示した。顕著な性質として、この表式は、高対称点での既約表現のみで書ける簡単な表式となっており、これを用いてこのトポロジカル相は高次トポロジカル絶縁体相と等価であることを示した。さらに、簡単なタイトバインティング模型を構築し、このトポロジカル相において、映進対称性に守られる表面状態と空間反転対称性に守られるヒンジ状態が表面の切り方に依存することを確かめた。 第二に、映進対称性に守られるZ2トポロジカル結晶絶縁体相の実現に向けて、フォトニック結晶系に対しこれらの結果を適用した。まず、先行研究で提案されたフォトニック結晶に対して新しい表式を適用し、この先行研究のフォトニック結晶がトポロジカルになっている物理的な理由を解明し、これを応用してトポロジカルフォトニック結晶の設計指針を与えた。この方法では、トポロジカル不変量の表式が非常に簡単化されるため、どのようにこのトポロジカル相を実現するかが明確になり、フォトニック結晶での実現例をはじめ、今後磁性体やフォノン系、メタマテリアル等でのこのトポロジカル相の実現へと繋がる可能性を拓いた。 本研究成果では、空間群表現論とトポロジカル相の理論に関する基礎理論の構築、模型に関する数値計算、フォトニック結晶のバンド構造計算といったいくつかの研究手段をバランスよく用いて緻密に理論を構成していき、トポロジカル結晶絶縁体相に関する研究の発展があったと考える。
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