研究課題
本申請研究の初年度にあたる29年度は、解析の土台となるトランスジェニックフィッシュ及び抗体作成に充て、当該遺伝子(遺伝子X)破壊ゼブラフィッシュ及び、同リコンビナントタンパクを抗原とした抗体を作製した。これらの作出には期間を要するため、初年度に行い、さらにその間に孵化酵素遺伝子の大規模なゲノム解析を行った。孵化酵素遺伝子は脊椎動物間で相同遺伝子であるとされているが、エクソン‐イントロン構造が大きく異なり、具体的には真骨魚類ですべてのイントロンが失われている。これは真核生物間で相同遺伝子のエクソン‐イントロン構造が保存されているという基本的な原則に反している。そこで我々はゲノム解析とレポーターアッセイを通して真骨魚類の孵化酵素遺伝子が、その進化過程において、レトロトランスポゾンのシステムを利用して、転写調節領域ごと何度もゲノム上を動き回っていることを明らかにした(レトロコピー)。このことは脊椎動物間で孵化酵素遺伝子が相同遺伝子であることを指し示すと同時に、孵化酵素遺伝子が「レトロコピーで生じた遺伝子は本来の転写調節制御下から外れる」という原則から外れたユニークな遺伝子であることを示している。申請者はこの成果をまとめ、学会における発表を行い、さらに現在論文として投稿中である。またチョウザメの孵化腺細胞の形態に関する研究成果についても経過をまとめ、研究会にて発表した。この成果も39年度中の論文投稿を目標として解析を継続する。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画の通り、トランスジェニックフィッシュと抗体が作成できた点を評価している。これに加え、ゲノム解析から脊椎動物孵化酵素遺伝子の相同性を示すとともに、ユニークなレトロコピーとして初年度から論文投稿に辿りついた点を大きく評価している。その一方で孵化酵素遺伝子のレポーターアッセイの過程で、遺伝子Xが孵化腺細胞の分化のみならず、孵化酵素遺伝子の転写調節制御を直接行っている可能性が高いことが示唆された。計画当初はこのことを予期しておらず、次のような問題を新たに招いている。これまで、先行研究では遺伝子Xの抑制は孵化腺細胞の分化を阻害するとされてきた。しかしこれらの解析では、孵化酵素遺伝子などのマーカーの発現抑制で孵化腺細胞分化の阻害を評価していた。今回遺伝子Xが孵化酵素遺伝子の転写調節を直接制御している可能性が新たに示されたことから、遺伝子Xは「孵化腺細胞の分化を制御しているのではなく、下流遺伝子の転写制御のみを司っている」可能性が新たに生じた。しかしこれに関しては、下記項目「今後の研究の推進方策」に記すように、解決策を講じているため、大きな問題としていない。以上の点から、おおむね順調な進展と評している。
遺伝子Xが下流遺伝子の転写調節制御のみを行っている可能性について申請者は、トランスジェニックフィッシュを用いて問題の解決を図る。遺伝子Xのマーカー遺伝子解析に加えて、孵化腺細胞の有無を形態学的に観察する。孵化腺細胞は比較的サイズが大きく(約30μm)、またゼブラフィッシュでは孵化腺細胞が卵黄表面に位置するため、光学顕微鏡でその有無が観察可能である。さらに1細胞期に蛍光色素を注入し、判別も可能である(これは背景となる卵黄が非細胞性で、かつ胚が透明なゼブラフィッシュだから可能)。これにより遺伝子Xの孵化腺細胞分化への関与を考察する。さらに我々は遺伝子Xのエンハンサー解析を計画している。現在我々は遺伝子X近傍の保存配列解析を行い、条鰭類に特異的に保存されている近傍配列(CNS)の存在を見出した。これには転写因子Y(遺伝子Y)の推定結合配列が含まれている。遺伝子Y抑制ゼブラフィッシュでは孵化腺細胞の形成が阻害される一方、カエルでは遺伝子Yが孵化腺細胞の分化に関与しないことが知られている。現在CNSを蛍光タンパクに結合させたコンストラクトをゼブラフィッシュ胚に顕微注入すると孵化腺細胞での蛍光が得られることを確認済みである。今後はこの配列をCRISPR/Cas9システムで破壊し、表現型を観察する。加えて市販の抗ゼブラフィッシュ遺伝子Y抗体を用いてクロマチン免疫沈降を行い、遺伝子YとXの関係を考察する。
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Journal of Experimental Zoology Part B: Molecular and Developmental Evolution
巻: 328(3) ページ: 240-258
10.1002/jez.b.22729