研究課題/領域番号 |
17J10687
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研究機関 | 東京慈恵会医科大学 |
研究代表者 |
長澤 竜樹 東京慈恵会医科大学, 医学部解剖学講座, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 孵化酵素 / 孵化腺細胞 / 真骨魚類 / 両生類 / 一細胞RNA-seq |
研究実績の概要 |
本年度は孵化腺細胞の発生学的起源の進化を探る上で次の2つの解析を行った。 1) 孵化酵素遺伝子の分子進化 真骨魚類と四足動物(陸上脊椎動物)の孵化酵素遺伝子の分子進化をそれぞれ追った。両群では相同遺伝子が孵化酵素としての機能を担っているとされていたが、両遺伝子はイントロンの数が大きく異なる(8イントロンと0イントロン)という相同遺伝子の一般的な保存性に反していることから、由来を異にする遺伝子である可能性が残されていた。このことは相同遺伝子を合成・分泌する機能を持った細胞の機能転移を示すことを目的とした本研究と矛盾している。そこで大規模なゲノム比較解析を行った結果、真骨魚類が相同遺伝子を元にしてイントロンを消失させながらゲノム上を動き回る非常にユニークな分子進化を遂げていることが明らかになった。本研究成果は学術論文として纏め、公表済みである(Nagasawa et al. Sci Rep 2019)。また、同解析から四足動物の孵化酵素遺伝子および真骨魚類のパラログ遺伝子の分子進化も明らかにすることができた。同成果は最終年度中に学術論文として公表する予定である。 2) 孵化腺細胞の分化カスケードの進化 昨年度中にゼブラフィッシュとツメガエルのsingle-cell transcriptome解析の論文が公表されたのを受け、これを元に孵化腺細胞分化カスケードの推定および進化的考察を行った。申請者は既に真骨魚類に特異的な分化因子を破壊したゼブラフィッシュ、および両生類と真骨魚類に共通の分化因子を破壊したゼブラフィッシュをそれぞれ作製し、いずれも孵化腺細胞が分化しなくなることを確認している。この両因子を取り巻く遺伝子ネットワークの推定から、共通の因子の発言調節を支配する因子が変わることによって胚葉を越えた機能転移が起こるのではないかと推察している。最終年度はこの仮説の検証を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初予定していた分子進化学的解析から、両群間の孵化酵素が相同遺伝子であることを明らかにすることができた。さらに予想外にも、真骨魚類孵化酵素遺伝子のイントロン消失メカニズムの解明にも大きく貢献する成果を派生的に得ることができ、それを原著論文として公表することができた。当初の計画にあった四足動物孵化酵素遺伝子の分子進化様式も大方終えることができた。 本研究課題開始時には無かった、ゼブラフィッシュとツメガエルのsingle-cell transcriptomeデータが、本年度中に公表されたため、これを用いた解析へとシフトすることができた。これにより当初の予定よりも、分化カスケード全容を可視化できる可能性が出てきた。実際に解析を進めると、当初予定していた2つの分化因子のエンハンサー解析を行わずとも、両因子のカスケード上下関係を示すことができた。 以上のような、予定していた解析による派生的な成果、および他研究分野の予期しなかった発展により、計画時よりも多くの成果を得られつつある。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は分化因子破壊ゼブラフィッシュのトランスクリプトーム、およびCRISPR/Cas9による遺伝子破壊導入個体での評価を行う、これによりsingle-cell transcriptomeから推定した孵化腺細胞分化カスケードを実験的に検証する。またこれによって孵化腺細胞分化への関与が立証された因子をツメガエルsinge-cell transcriptomeデータへと反映させ、共通分化因子および特異的分化因子をそれぞれ炙り出す。これによって孵化腺細胞分化カスケード全体の進化的考察を行うことができ、孵化腺細胞の胚葉を越えたコオプションを可視化することができる。
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