研究課題/領域番号 |
17J10691
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
谷口 卓也 早稲田大学, 理工学術院, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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キーワード | メカニカル結晶 / ソフトロボット / 光反応 / 構造相転移 |
研究実績の概要 |
申請者は当該年度までに、145度で構造相転移するキラルアゾベンゼン結晶において、加熱・冷却を繰り返すことで結晶自体が基板の上を移動していく現象を見出していた。当該年度中に、顕微鏡とサーモグラフィーによる同時観察を行うことで結晶が方向性をもって移動していく機構を明らかにした。厚みに勾配がある結晶は、結晶の伸び縮みを利用して、尺取り虫のように歩いていくことがわかった。また、より薄く幅に勾配のある結晶は1回の加熱または冷却のみで基板上を転がって尺取り虫歩行の2万倍の速さで動いた。このように結晶外形の非対称性が方向性のある移動につながっていることを明らかにし、本研究成果をNature Communications誌に報告した。 次に、より低い温度で相転移する結晶を見つけるために様々な分子を合成した。そのうち、あるサリチリデンアニリン系の結晶は約40度で相転移することがわかった。単結晶X線構造解析により、相転移前後の結晶構造を明らかにした。平板状の単結晶に紫外光を照射すると、段階的な屈曲挙動が観察された。光を当てた直後はねじれながら曲がるが、そのまま光を当て続けると突然ねじれが解消され、そのあとは屈曲のみ起こった。この段階的な屈曲挙動から、光反応と熱相転移が動きを創出していることが分かった。 結晶表面温度を測定した結果、光照射によって40度までは温度上昇していないことが分かった。これは、熱ではなく光によって相転移を誘起したことを意味しており、期せずして「光トリガー相転移」と呼べる現象を発見した。この機構は、光異性化した分子が結晶中に微小なひずみを発生させ、ある程度光反応が進行するとひずみを解消するように結晶全体の構造が変化すると推察できる。光異性化は結晶全体から見たら数%程度しか起こっていないにも関わらず、結晶全体の構造が変化するという興味深い相転移現象を発見することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当該年度までに、145℃で構造相転移する分子結晶が相転移時に屈曲し、加熱・冷却を繰り返すことで基板の上を移動することを見出していた。当該年度中に結晶外形の非対称性が方向性のある動きを引き起こしていることを見出し、結晶があたかも歩いたり転がったりするという現象をNature Communications誌に報告した。結晶が移動する現象は世界で初めての発見であり、本研究成果はいくつかの新聞・メディアにも掲載された。 上記の成果に加え、より室温に近い温度で相転移する光反応性サリチリデンアニリン系結晶の発見にも成功した。光反応と構造相転移を組み合わせて、段階的なねじれと屈曲を示すことが見出された。また、予期していなかったことだが、同じサリチリデンアニリン系結晶が光によって「光トリガー相転移」という特異な相転移現象を示すことが分かった。光異性化は結晶全体から見たら数%程度しか起こっていないにも関わらず、結晶全体の構造が変化するという興味深い相転移現象を発見することができた。
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今後の研究の推進方策 |
サリチリデンアニリン系結晶の光反応と構造相転移による複合的な動きを制御する。そのために、光照射の強度や波長、測定温度を変えて動きのパターンを観察する。結晶を固定せずにガラス基板上に置き、複合的な動き制御で得られた知見を元にして基板上を自由に移動させることができるようにする。本実験で観察されたサリチリデンアニリン系結晶の移動現象について、推進力の働く機構を明らかにする。 また、上記の実験と並行して、光トリガー相転移の機構解明を行う。光トリガー相転移とは、熱的相転移温度の40度より低い温度においても、光照射によって結晶構造変化が誘起される現象である。そのため、室温より低い温度で結晶構造解析を行い、光照射前後の構造変化を確認する。また、赤外線サーモグラフィーを用いて、光照射による結晶表面温度の変化を測定する。さらに、スーパードライルームなどの結露しない条件下で、低温時の光による結晶形状変化を観察する。これらの結果を元に、光トリガー相転移という特異な相転移現象の発現機構を明らかにする。
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