社交不安の維持要因には、自己注目(自己への過度な注意)や注意バイアス(脅威的な他者への過度な注意)といった注意の問題が指摘されているが、2種類の注意の偏りがどのような関係にあるのかを示した実証的研究は少ない。そこで、両者の特徴を比較可能な形で捉えることを目的とした一連の研究を行った。 研究1では、社会的場面において自己注目と注意バイアスが生じたときの視線の動きや脳活動を測定し、両者の可視化を試みた。大学生38名を対象に、自己注目や注意バイアスをしながらスピーチをするように教示を行い、視線追跡装置と近赤外線スペクトロスコピー (Near-infrared spectroscopy: NIRS) を用いてスピーチ中の視線の動きと脳活動を測定した。研究2では、特別な教示がない状況においても、社交不安者には自己注目と注意バイアスを表す視線の動きと脳活動が表れるのかどうかを検討した。大学生40名を対象に、特別な教示を行わずに普段と同じようにスピーチをする条件と統制条件の2条件下でのスピーチ課題を実施した。これらの研究を行った結果、社交不安における主要な問題は、注意バイアスよりも自己注目の方であることが示唆された。特に、自己注目という非機能的な処理に伴い脳の右前頭極が過剰に活動する様子が捉えられ、注意バイアスは副次的に表れる特徴であることが示唆された。また、自己注目の中でも特に「他者から見える自分の姿 (心的イメージ)」に固執することが前頭葉機能異常や回避的な視線の動きに関わることが示唆された。以上の結果をふまえて、作業仮説として注意のプロセスモデルを生成した。 このように、従来の知見を統一的に理解するための方法論を開発し、注意の偏りの作用機序の解明を行った点が当該年度の研究実績といえる。
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