研究課題/領域番号 |
17J10764
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
三角 仁志 熊本大学, 先端科学研究部, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | ナノ薄膜触媒 / アークプラズマ / メタルハニカム / 貴金属 / 耐熱性SUS箔 / 三元触媒 / 高TOF反応 / 触媒・化学プロセス |
研究実績の概要 |
当年度は、自動車排気浄化のための新規な三元触媒の開発を目的とし「きわめて高い触媒回転速度(TOF)を発現するナノ薄膜触媒」に着目して①種々の金属を用いたナノ薄膜触媒の調製②マグネトロンスパッタ(SP)などで調製した参照試料とアークプラズマ(AP) 法試料との性能比較③新規なメタルハニカム触媒への応用展開の三点について研究を進めた。①ではAP法を用いて耐熱性SUS箔上に種々の貴金属および遷移金属のナノ薄膜を析出させ、その構造と触媒特性を評価した。遷移金属のナノ薄膜はほとんど活性を示さなかったが、貴金属を用いたナノ薄膜はRhのNO-CO反応やPtのCO、HCの酸化反応等で高TOFが認められ、部分的に従来触媒と同等以上の浄化性能を示した。この結果ナノ薄膜化による高TOFの発現は金属元素だけでなく反応の種類にも依存することが明らかとなった。②では、AP調製したRhナノ薄膜触媒の活性および安定性をSP調製試料と比較した。調製直後の両試料は三元触媒反応にほぼ同等の活性を示したが、昇降温を繰り返した後、SP試料のみ活性失活がみられた。XPS等を用いた分析よりSP試料の失活挙動はRh表面濃度の減少が要因とみられ、APによって形成するRhナノ薄膜はSUS箔表面への強い蒸着に由来し、SPと比較して熱的に安定であることが判明した。③では、超高密度メタルハニカムの作成を行った。ナノ薄膜触媒は多孔性を有さず粉体と比べ表面積が低いという欠点を有する。そこでSUS箔を高度に集積したハニカムを設計し、体積あたりの幾何学表面積を大幅に増加させハニカムトータルの浄化性能の底上げを目指した。作成したセル密度10000 cell/in2のメタルハニカムは、三元触媒模擬反応(SV=76000 h-1)において、実用されているセル密度(900 cell/in2)のものと比べ反応温度が各成分20~30 ℃低温となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、厚さ数ナノメートルの貴金属薄膜表面で発現するきわめて高い触媒回転速度(TOF)に着目し、その機能-構造相関および触媒反応機構を解明するとともに、新規なメタルハニカム触媒への応用展開を図り、次世代自動車触媒の基盤技術を創生することを最終目的としている。本目的の達成には第一に、ナノ薄膜化することで特定の反応に対し高いTOFを発現する金属種を特定する必要がある。該当年度の研究により、RhおよびPtの一部の反応では従来粉末(ナノ粒子)よりナノ薄膜がはるかに高いTOFを示すことが分かった。とりわけRhがNOに関与する反応で顕著であり、粉末より高い浄化性能を達成する最も有望な系であることが明らかとなった。また、ナノ薄膜の厚さおよび均一性の制御、材料の熱安定性といった観点からアークプラズマ法による調製がナノ薄膜触媒に有用であることがマグネトロンスパッタ調製試料との比較より分かった。表面積が小さいというナノ薄膜触媒の欠点をカバーするための手法として、超高密度メタルハニカムの作成を試みた。10000 cell/in2というセル密度は粉体の厚いウォッシュコート層(約40 μm)を有する従来のハニカム触媒では不可能であり、触媒層がわずか数ナノメートルという本材料の利点を生かした独自のアプローチである。本手法とナノ薄膜の高TOFの相乗効果により実車環境を想定した三元触媒模擬反応の浄化試験(SV=76000 h-1)においてより高効率な排気浄化を達成できた。本研究は触媒材料の構造、調製法、ハニカム設計に至るまで全てが従来触媒と大きく異なり、様々な手法による独自性の高い成果を創出できる。今後は異種金属の複合化など続くナノ薄膜材料の開発に加え、高TOFが認められた系に対しナノ薄膜の構造物性相関を明らかにするとともに反応分子や反応速度にも着目して高TOFの発現機構に関する知見を深める必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画に従い主に以下の三項目に沿って研究を進める。 ①AP法によるナノ薄膜触媒の調製:複数のAP 源を組み合わせて複合膜、積層膜、傾斜組成膜など多様な組成・構造制御を検討する。 ②構造解析および状態:1)①で調製した材料およびこれまでの研究で高TOFを発現した材料に関して、XPS、薄膜XRD等を用いた構造解析を行い、単結晶やナノ粒子(粉末)と異なる二次元構造の特徴を明らかにする。2)解析結果をもとに第一原理計算によりモデル構造を構築し、界面構造および電子状態に関する知見を得る。 ③触媒反応および機構解析:1)種々の反応に対して、速度解析により触媒回転速度、活性化エネルギー、反応次数などを求める。2)触媒反応状態のin situ 赤外反射分光、X 線光電子分光などを用いて吸着種および反応機構を解明する。 上記を主な方針とし、未だ明確となっていない「ナノ薄膜上での高TOF反応の発現メカニズム」に関する知見をより深化することを最終的な目的とする。
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