研究課題/領域番号 |
17J10856
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
伊原 尚樹 東京大学, 薬学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 神経回路形成 |
研究実績の概要 |
申請研究では、マウス嗅覚系をモデルとして神経活動依存的な回路形成機構の解明をすべく、嗅細胞における神経活動に記録および操作の実験に取り組んだ。神経活動の記録では、遺伝学的手法を用い特定の嗅覚受容体(OR)を発現する嗅細胞だけでCa2+濃度の変化を可視化するGCAMP6fを発現させる遺伝子改変マウスを作製し、嗅上皮急性切片において退色の少ないニポウディスクを用いた共焦点顕微鏡を用いて神経活動の記録を行った。記録したカルシウム動態変化パターンを解析した結果、嗅細胞において発現するORの種類によって異なる自発的神経活動パターンが存在することが明らかとなった。さらに、神経活動の記録から得られた結果をもとに、特定の神経活動パターンによって特定の軸索選別分子の発現が作り出されるかを検証するため、嗅細胞における神経活動の操作の実験も行った。まず、嗅細胞においてチャネルロドプシンを発現させた遺伝子改変マウスを作製し、光遺伝学的手法によって人為的に神経活動を操作する系を立ち上げ、最大で40 Hzもの神経活動を再現することが可能であることを確認した。この手法を用いて、特定の神経発火をマウスの片側の嗅上皮において再現しin situ hybridizationによって軸索選別分子の発現量変化を調べた。その結果、秒単位の短期的なバースト状発火においては軸索選別分子であるKirrel2のみの発現が誘導される一方で、分単位にもおよぶ長期的な発火においては軸索選別分子であるOLPCやSema7Aの発現が選択的に誘導されることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初予定していた嗅細胞における神経活動の記録に加えて、神経活動操作の実験まで実施することができた。この結果、神経活動パターン依存的に軸索選別分子の発現制御が行われいていることを明らかにした。したがって当初の計画以上の結果が得られたと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの結果から、嗅細胞において発現するORの種類によって異なる自発的神経活動パターンを示し、異なる神経活動パターンは異なる軸索選別分子の発現を誘導することが示された。今後は神経活動の操作によって軸索選別分子の発現が変化することによって、嗅細胞の投射に変化が見られるかを検証する実験を行うとともに、OR固有の神経活動パターンは細胞内でどのように読み込まれ、分子発現へと変換されるかに関して神経活動依存的に活性化する転写因子に着目して制御機構の解明を目指す。
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