研究実績の概要 |
嗅覚系における神経活動に依存した軸索収斂の分子的基盤として、これまでに神経活動を介して制御される複数の細胞接着分子を同定し、これらの細胞接着分子の発現量は発現するOR分子に依存しており、分子間での発現パターンは大きく異なっていることを示してきた(Ihara et al., EJN 2016)。これらの細胞接着分子の発現量は発現するOR分子に依存しており、分子間での発現パターンは大きく異なっている。このことから、以下の2つ疑問が想定される。一つは、どのようにORの種類という情報が神経活動のスパイク列の中に表現されるのか、もう一つは神経活動を介してどのように軸索選別分子の多様な発現パターンがつくり出されるのかである。そこで本研究では、遺伝子改変マウスを用いて嗅細胞の神経活動を観察・操作することを通じて上記の2つ問題の解明に努めた。 まず一つ目の問題を明らかにするために、カルシウムイメージング法を用いて嗅細胞の神経活動を可視化し、時間変化のパターンを解析した。その結果、発生期の嗅細胞においては、視覚系など他の脳領域で知られているような隣接する神経の同期的な発火は観察されなかった。さらに、発現する嗅覚受容体の種類と自発的神経活動の対応関係の検証を行なったところ、嗅細胞は発現する受容体の種類に応じた特異的な神経活動パターンを示すことが明らかとなった。 さらに、神経活動がどのようにして細胞接着分子の多様な発現パターンを作り出しているかを明らかにするために、光遺伝学の手法を用いて嗅細胞の神経活動を操作する系を構築した。その後、嗅細胞に光照射によって人為的に様々な神経活動パターンを作り出し細胞接着分子群の発現変化を調べた。その結果、神経活動の異なる発火パターンに対して異なる細胞接着分子の発現が影響を受けることがわかった。
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