研究課題/領域番号 |
17J10858
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
西村 侑也 東京大学, 薬学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 海馬 / 前頭皮質 / テトロード記録 / in vivo ホールセルパッチクランプ記録 |
研究実績の概要 |
前年度に引き続き、記憶形成に重要な脳領域である海馬と前頭皮質の神経回路に注目し、記憶学習後の海馬と前頭皮質間のシナプス伝達を調べた。今年度は、前年度に確立したin vivo 系における海馬マルチユニット記録と前頭皮質ニューロンパッチクランプ記録の同時実行技術を最適化した。具体的には、既存の方法は、パッチクランプ記録を行うために動物を麻酔状態にする必要があったが、生体内のより自然な状態の神経活動を記録するために覚醒下の動物に同時記録法を適用できるようにした。この最適化によって、麻酔によるシナプス入力の遮断や神経活動の背景ノイズを排除した。電極セットを海馬に埋め込んだ動物にU字型の橋を繰り返し往復させる空間課題学習を行うことによって、課題学習と関連する海馬ニューロン(海馬場所細胞)の発火活動を記録した。そして、課題直後に動物を頭部固定台に移動させ、覚醒条件下において、海馬ニューロンの発火活動と前頭皮質ニューロンの膜電位を記録した。このような同時記録実験系は世界的に見ても例はなく、本研究が初めての試みである。この同時記録方法を用いて得られたデータから、海馬ニューロンの発火活動パターンと前頭皮質ニューロンの膜電位変動との関係を調べると、同じ情報を持つ一部の海馬ニューロン群が同時発火した時に前頭皮質ニューロンの膜電位が脱分極する傾向が見られた。これは、海馬で生成される情報の内容によって、前頭皮質ニューロンは異なるシナプス入力を受け取ることを示唆する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度は、麻酔中のラットに対してマルチユニット記録法とパッチクランプ記録法を同時適用していた。しかし、麻酔下での記録の際に、学習課題時に見られた多数の海馬ニューロンの発火活動が減少し、多数の海馬ニューロンの同期発火活動イベントを検出することが難しくなった。さらに、前頭皮質ニューロンの膜電位に周期的な徐波(アップ/ダウン)が生じ、海馬ニューロンの同期発火イベント時の膜電位変動を調べる際に、背景ノイズを捉えてしまう可能性が考えられたため、空間課題学習からパッチクランプ記録までの実験の全てのスケジュールを覚醒条件下で行う方針に切り替えることにした。覚醒条件下でのパッチクランプ記録は、世界的に見てもごく少数の研究グループにしかなせない極めて難しい技術であるが、3Dプリンターを用いて、覚醒動物用の固定器具と頭部保護具を独自に設計、印刷し、実験の細かい条件検討を行うことで技術的困難を克服した。現在は、ラット1匹から複数の前頭皮質ニューロンの膜電位記録に成功している。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に引き続き、覚醒条件下での海馬マルチユニット記録と前頭皮質ニューロンパッチクランプ記録を同時に行い、データ数を増やす予定である。また、当初の計画では、海馬リプレイ発生時の前頭皮質ニューロンの膜電位変動を調べる予定であったが、現在までに海馬リプレイ解析に十分な数の海馬場所細胞の発火活動が記録できていない。記録した海馬場所細胞数が少ない場合、2細胞、3細胞などの条件で同期発火イベントを検出し、その時の前頭皮質ニューロンの膜電位変動を調べる予定である。この時、ある特定の海馬場所細胞が含まれる同期発火イベント中に膜電位が変化する、同じ場所情報を持つ場所細胞群が同期発火した時に膜電位が変化するなどの特徴的な現象が、再現性良く、異なる個体間で見られるかどうかを検証する。また、海馬場所細胞の発火活動だけでなく、海馬で見られる特徴的な振動(シャープウェーブリップル)と前頭皮質ニューロンの膜電位変動との関係についても調べる予定である。
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