研究課題/領域番号 |
17J10877
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
大森 裕土 名古屋大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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キーワード | ポルフィリン / 典型元素 / ホウ素 |
研究実績の概要 |
有機エレクトロニクス分野の発展にともなって、新たなπ電子系化合物の開発の重要性が高まっている。新規π電子系化合物の合成において、最近特に注目を集めているのがヘテロ原子のπ電子骨格への導入である。これらの原子の特徴としてπ共役系との特異な軌道相互作用、配位数や価数の多様性、特異な構造をとることがあげられる。一方、ポルフィリンは機能性π電子系の代表的なもので、様々な分野で研究されている。したがってヘテロ原子を導入する基本骨格としてポルフィリンを用いることで、優れた物性をもつ分子の構築が期待できる。特にホウ素を導入した場合には、ホウ素の空のp軌道に由来する特異な軌道相互作用や高いルイス酸性により、その電子物性を大幅に変調できると考えられる。 本研究は、そのようなホウ素を含む新規ヘテロポルフィリン類縁体の合成および物性の解明、機能性の探求を目的として行った。具体的にはすでに合成に成功している他のヘテロポルフィリン類縁体を前駆体とすることでホウ素を含むポルフィリン類縁体の合成に成功した。得られた化合物はNMRおよび質量分析、X線結晶構造解析からその構造を明らかにした。この化合物はホウ素上の空のp軌道を含む共役により、明確な反芳香族性を示した。さらにホウ素上でのルイス塩基の配位挙動について調べ、配位/脱配位に伴って化合物の電子物性が大きく変化することを明らかにした。 本研究により得られた化合物はポルフィリン骨格の共役上にホウ素を導入した初めての化合物であり、導入したホウ素の影響によりポルフィリン骨格の電子物性を大きく変化させることに成功した点で重要な成果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本課題で報告者はホウ素を含むポルフィリンに関する研究を精力的に進めている。これまでに全く報告例のなかったメゾ位にホウ素を導入したポルフィリンの合成を達成したことは大きな成果である。この化合物は明確な反芳香族性やルイス塩基との反応性など興味深い性質をもつことを明らかにし、そのほかの物性、機能性についても詳細に解析を進めている。ポルフィリンのように大きな共役中にホウ素を導入した例はほとんどなく、その性質について明らかにしたことはポルフィリン化学のみならず含ヘテロ機能性π電子系の設計指針に重要な知見を与えるものである。報告者はこれらの成果を多くの学会で発表しており、多くの研究者から高く評価された。以上の点から「当初の計画以上の進展」があったと考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は得られた含ホウ素ポルフィリン類縁体の各種金属錯体の合成に取り組む。反芳香族化合物を配位子として用いた金属触媒反応はこれまで例がない。反芳香族π電子系は高いHOMOおよび低いLUMOをもつことから、中心金属の酸化状態に大きな影響を及ぼすはずである。このため酸化反応、還元反応に用いることで、金属の価数の変化によりこれまでにない反応性を示す可能性がある。様々な遷移金属錯体を合成し、その電気化学測定から酸化還元特性を明らかにする。その結果に基づき、酸化反応や還元反応への利用を検討する。
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