研究課題/領域番号 |
17J11096
|
研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
寺原 拓哉 早稲田大学, 理工学術院, 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
|
キーワード | ST-SI-TC-IGA / T-spline / 大動脈弁流体構造連成解析 |
研究実績の概要 |
流体場内で物体同士が接触する流体構造連成解析の実現に向けて, 大動脈弁の構造解析結果を用いた流体解析を行った. これまでの流体解析では用意した弁動作を用いていたため, 流体の解析格子や接触の含む流体解析に必要となる格子点同士の接続情報を比較的容易に生成することができた. しかし, 構造解析を用いた解析の際には, 構造解析で得た形状を基にこれらを生成する必要がある. 構造解析では血管の解析に用いられる超弾性体ファングモデルの非圧縮性薄肉モデルを用いた. また, 弁の面全域で滑らかさを担保するため空間の基底関数にT-splineを用いた. T-splineはNURBSの上位互換の曲面理論で, 複雑な形状に対しても曲面全体でC^2連続を保持できる. また, 局所的な格子の細分化も可能となる. 境界条件として面全域に一心拍で時間変化する圧力差を与えた. 流体解析では計算を効率よく行うため, T-splineではなく空間の基底関数にNURBSを用いた. 構造解析で得た形状に対して弁の表面及び, 周囲の流体場領域に解析格子を生成した. この時弁同士が触れていない状態の格子は一度理想的な解析格子を生成した後で, 格子自体を弾性体とみなした構造解析により得た. また, 弁同士が触れている状態の格子は毎時間ごとにプログラムで直接生成した. ここで, 物体が接触する流体解析では, 接触を表現するために要素を押しつぶし, 重なり合う格子点の未知数を同値とみなす. この時, どの格子点同士が接続するかという情報が必要となる. そこで, 得た解析格子の要素ごとの体積を算出し, 要素体積がある値以下の部分では接触とみなし該当する格子点に接続情報を与えた. 境界条件として脈動流を表現する時間変化する流速を流入面に与えた. 解析結果より, 弁同士が接触する直前の速い流れまで捉えることができた.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は物体同士の接触を含む流体構造連成問題の数値解析手法の開発を目的としている. 本年度は目的の実現に向け, 大動脈弁の構造解析を行った後, 得た形状を基に流体解析を行った. まず構造解析ではT-splineという複雑な形状に対しても滑らかさを担保できる基底関数を利用した. さらに, 超弾性体ファングモデルの非圧縮性薄肉モデルを用い, 簡易的に, 弁同士の接触を考慮した解析を行った. こうして構造解析に基づく弁動作を抽出することに成功した. 次に流体解析では計算コストを抑えるため, T-splineではなくNURBSを基底関数に選択した. そのため, 構造と流体で離散化が異なることからそのあいだのマッピングが必要であったがこれの対応を行った. マッピング後は, 弁の形状をインプットとして解析格子を半自動で生成することに成功した. これは, 弁同士の接触のない部分では従来手法である格子自体を弾性体と見立てた構造解析により, 弁同士の接触のない部分ではプログラムにより自動生成することで実現した. さらに, 物体同士の接触がある流体解析では, 格子点同士を重ね, 要素を押しつぶすことで接触を表現している. この時どの点同士を重ねるかという情報が必要になる. これまでは自分で弁および, 格子の動作を決めていたため, この情報も手動で生成していた. 今回は格子を自動生成したため, どの格子点同士が重なっているか分からなかった. そこで, 要素体積に注目し, 押しつぶされている要素に属する格子点に格子点接続情報を自動的に与えることでこれを自動生成した. 計算結果からは, より現実に近い弁動作に基づいた流れを得ることができた.
|
今後の研究の推進方策 |
これまでに, 物体の形状を入力として流体格子を自動生成することで, 構造解析により得た形状を使用した流体場内の物体接触がある流体解析に成功している. 次に, これを流体構造連成解析に発展させる. 流体構造連成解析では接触する物体の動作がより複雑になるため, 格子の動作もより複雑になることが予想される. そのため本研究では, まず接触を含む剛体と流体の連成解析を行った後で流体構造連成解析を行う. まずはじめにこれらの解析では左心室内流れの例を用いる. 左心室の入り口と出口にはそれぞれ心臓弁が存在する. 心臓弁に疾患がある場合人工弁である機械弁に置き換える治療がされる. 機械弁はカーボンやチタンなどから成り, 剛性が高く剛体として取り扱える. そこでまず心臓弁を機械弁に置き換えた左心室流体剛体連成解析を行った後, 左心室流体構造連成解析を行う. 機械弁を用いた流体剛体連成解析では, 物体同士が常に同じ位置で接触, 解離を繰り返すため, 格子の動作が予測しやすい. そのためここでは, 時間刻み幅のとり方や, 必要な格子解像度を重点的に明らかにする. 次に流体構造連成解析では物体同士の接触一が予測できないため, 求められるスライド面や, 格子の制御がより複雑になる. 接触しながら滑り合ったり, 移動するという動きも予測されるため, そのような動きにも対応できる様手法をアップデートしていく. 次に構築した手法を用いて, 他の接触を含む流体構造連成解析を行い, より実用的な知見を得る. 他の接触を含む流体構造連成解析の例として以下の現象を扱う予定である. 1. 宇宙船帰還時に, 宇宙船がカバーを外す現象. 2. 自動車部品などに用いられる軸受周り流れ. 3. 鳥類が羽ばたくときに, 効率的な飛行のため羽根同士を接触させる現象.
|