令和元年度はまず流体構造連成解析による複雑な動作を伴う心臓弁の高精度流体解析を実現し、査読付き国際ジャーナル論文の一本目を執筆した。 さらには実際の問題への適用のため、心臓弁を有する心血管系を対象とし、境界適合格子での流体解析を行った。本問題に取り組むにあたって、流入口および流出口にトラクション条件を課す手法を提案した。通常流体解析では流入口には流速、流出口にはトラクション条件を課す。一方で実際の心血管系では流体は圧力により駆動される。さらに、流入境界において流入出が起こる問題では、流入量を規定することが適さない。ここで、トラクション条件を課した境界から流入する場合、速度プロファイルに対して、流入するエネルギーが一意に定まらないため、安定的に解くことが難しいという問題がある。流出境界で用いられる安定化手法は研究されているが、流入するエネルギーを減らす方法であるため流入境界には適さない。この課題に対して、本研究では二次のB-splineを応用することで解決した。二次のB-splineで構築された一要素を流入口に設け、計算ドメインと不連続な基底関数を許す方法により接続する方法を提案した。二次のB-splineの一要素は流入境界を三点の制御点で表現し、そのうち二点の端点は壁であるため流速が規定される。よって中央の一点のみでパラボラ型の速度プロファイルが決定される。本手法を用いたテスト計算では、流出境界で用いられる安定化手法と比較を行い、より理論解に近い結果を得られていることを確認した。また本手法を適用した心血管系の流体解析では、左心室内部で作られる大きな渦流が、らせん流となって大動脈内に流入する様子や、大動脈弁が左心室内部の乱れた流れに影響され非対称な壁面せん断応力を受けていることが確認できた。本研究内容をまとめ、査読付き国際ジャーナル論文の二本目を執筆した。
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