研究課題/領域番号 |
17J11177
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
東山 大毅 東京大学, 医学研究科, 特別研究員(SPD)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 脊椎動物 / 進化 / 発生 / 形態 / 頭部 / 顎顔面 / 神経堤細胞 / 古生物学 |
研究実績の概要 |
最終年度での繰越し使用のため、最終年度実績報告書と同様の内容を以下に記述する。
脊椎動物の顔面は複数の発生原基により生じる。その組合せのパターンは、あらゆる教科書において少なくとも羊膜類で保存されているとされてきた。しかし、哺乳類での軟組織―例えば三叉神経の分布は、教科書的な原基の組合せから想像されるのとはまるで異なるパターンを見せる。これは何を表すのか。 本研究では、①顔面原基の結合阻害実験 ②上顎原基の細胞系譜追跡実験 ③非モデル動物胚や化石も含めた形態比較の3つを講じ、動物の顔面の構造がどの胚原基に由来するか、哺乳類とそれ以外の動物の差は何によって生み出されるかを明示した。 ①ではcyclopamine を用いた、既にある口唇口蓋裂モデルの作成法をマウスとニワトリで施し、さらに同様に口唇口蓋裂のソメワケササクレヤモリとも比較した。②ではDlx1-CreERT2 マウスというほとんど誰もモデルとして用いてこなかったマウスを導入して顔面原基の系譜追跡実験をおこなった。③ではニホンアカガエルをも含めて顔面の発生を三次元構築して比較、また日本ではまず入手できないようなハリモグラ・カモノハシ胚に関してもベルリン自然史博物館の試料を使って三次元像を構築した。さらにテュービンゲン大学に赴いて、哺乳類への進化過程の化石を数多く観察し、進化史を考察した。 以上の結果、「末梢神経のような解剖学的構造は発生の由来と頑健に対応する」「哺乳類での構造のズレは発生の由来自体の大幅にシフトによる」「哺乳類の鼻先は祖先における口先の転用であり、上あごは漸進的なシフトによって新規に形成された」という結論を導いた。この成果は、18 世紀から当たり前に教科書に書かれてきた解剖学的フレームワークを塗り替えてしまうものと考えている。現在は論文として執筆済みであり、投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究成果を論文にまとめるにあたって、他の著者とも綿密にディスカッションをおこなったほか、発生拘束や発生モジュールといった理論・概念の専門家にもチェックしてもらい、研究の論理や一般性に関しても隙のないよう、じゅうぶんな強化を施した。 本研究課題は、いまだに論文としては世に出ていない状態であるものの、すでに投稿はされている状態である。また国際学会や国内学会でもすでに発表されて一定の評価も得ている。論文として出版される雑誌がどこであれ、本研究が比較形態学や進化発生学の歴史において重要な一つになることは、自身だけでなく、周囲の研究者の幾人かからもそう評価されている。これらの点を鑑みるに、本課題の研究成果はかなり上出来と言えると考えている。3年という期間において新規なプロジェクトを立ち上げ、評価される論文として書き上げるに至ったという点では順調な成果と言えるのではないだろうか。
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今後の研究の推進方策 |
本研究において「①哺乳類では顔面原基の構成が大きくズレている(つまり現在の教科書的な頭部骨格の相同性フレームワークは書き換える必要がある)」「②たとえ末梢神経でも、その相対的な位置関係は発生原基の分布を頑健に反映する」という現象論が確認できた。しかし、その背景にある機構論についてはいまだに何も示されていない。 今後は本研究に引き続く課題として形態進化の機構論により迫れるよう、上記の課題について研究を深めてゆく所存である。
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