近年、疫学的研究により、赤血球容積分布幅(Red cell distribution width: RDW)が大きいと心不全や脳梗塞、静脈血栓塞栓症等の血栓性疾患の発症リスクが増加すると報告された。赤血球の大きさや膜構造の違いが発症に関わっている可能性があるが、それらが血栓形成に与える影響について詳細に検討されていない。そこで本研究では、RDWと血栓形成の関連に着目し、赤血球の変化が循環器疾患に与える影響を解明することを目的としている。 ① マウスの週齢によるRDW、網状赤血球数の変動: 4週齢、7週齢、25週齢の野生型マウス(C57BL/6J)を用いて、RDWおよび網状赤血球数を測定した。その結果、4週齢のマウスは7週齢および25週齢のマウスに比べてRDWが大きいことが分かった。また、網状赤血球数も4週齢のマウスで多いことが分かった。 ② 鉄欠乏に伴うRDW、網状赤血球数の変動: 野生型マウスに離乳後より鉄欠乏餌を与え、鉄欠乏に伴うRDWの変動を測定した。鉄欠乏餌を与えられたマウスでは、測定不能になるほどRDWが増大した。しかし、ヒトの鉄欠乏性貧血と異なり、今回の鉄欠乏モデルマウスでは網状赤血球数が増加しており、ヒトの鉄欠乏状態と異なる赤血球産生状態を示していた。 ③ RDWの異なる赤血球の血液凝固関連機能の測定: RDWの異なるマウス(4週齢、7週齢、25週齢)の血液から洗浄赤血球液を調製し、赤血球のトロンビン生成能をトロンビンの発色基質S-2238を用いて測定した。さらに、ホスファチジルセリン露出赤血球数をAnnexin Vの蛍光標識体を用いてFACSで解析した。トロンビン生成能は、RDWが大きい4週齢マウスに比べて、RDWが小さい7週齢、25週齢マウスで高い傾向にあった。ホスファチジルセリン露出赤血球数は、4週齢、7週齢、25週齢で著明な変化はみられなかった。
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