有機π電子系は、多彩な電子的、光学的、および磁気的をもち、新たな基盤材料として期待されている。中でも電子欠損性のホウ素を組み込んだトリアリールボランは、ホウ素の空軌道を介したπ軌道との共役により、電子受容性や特徴的な光・電子物性をもつ。しかし、それらを材料として応用するには、ホウ素原子の周りをかさ高い置換基で保護し、速度論的に安定化させる必要があるとこれまで考えられてきた。これに対して当研究室では、トリアリールボラン骨格を平面構造に固定化することで、立体保護がなくとも十分な安定性を獲得できることが報告した。このアプローチをもとに、ジメチルメチレン基で架橋したトリフェニルボランを基本骨格とする平面π電子系を数々合成し、光・電子物性の評価や、アニオンやラジカルなどの不安定化学種の生成、有機エレクトロニクスへの応用など、広範に研究を展開してきた。しかし、平面ホウ素π電子系に自己集合能を付与し、集合体状態や薄膜状態において分子配向を制御することでさらに優れた物性を獲得するには、架橋部位のかさ高さを低減した平面固定トリアリールボラン骨格の創出が必要であった。そこで本研究では、ジメチルメチレン基の代わりにメチレン基で平面固定化し、π骨格の拡張と官能基化が容易な新たなトリアリールボラン骨格を設計し、合成に取り組んだ。この平面固定化ボランは、4-ブロモ-m-キシレンを出発材料に、計7段階で得ることに成功した。特筆すべきは、それぞれのステップで目的物質を高収率で得られ、精製が容易なため、大量合成に向いている点である。また、単結晶X線構造解析により、この平面固定化ボランは一次元的にπスタックすることが確認された。適切な官能基化によりこれまで困難とされてきたホウ素π電子系の超分子化学への応用が期待される。
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