研究実績の概要 |
バクテリアの運動器官であるべん毛は、時計回り(clockwise, CW)と反時計回り(counterclockwise, CCW)の両方向に回転することができるモーターである。モーターの回転は、細胞膜内外の電気化学ポテンシャルを運動エネルギーに変換することで生じる。このエネルギー変換は、固定子及び回転子と呼ばれるタンパク質複合体が適切に相互作用することで生じる。所属研究室では、Na+駆動型べん毛をもつ海洋性ビブリオ菌をモデル生物として、モーターのエネルギー変化の機構の解明が進められている。2種類の膜タンパク質[PomA及び、PomB]からなる固定子は、Naイオンチャネルとして働き、回転子の周囲に集合することで活性化することが分かっている。回転子中のC-ringは3種類のタンパク質[FliG, FliM, FliN]からなり、固定子との相互作用によるエネルギー変換と回転方向の決定に関わる。FliGはN末端側からFliGn、FliGm、FliGcの3つのドメインをもつ。FliGmはFliMと相互作用し、FliGcはPomAと相互作用する。モーターの回転方向は、走化性シグナルと呼ばれるChe因子のリン酸化/脱リン酸化に伴うリン酸基のリレーが回転子に伝達することで生じる。この際に、生じるFliMの構造変化がFliGに伝わることで、FliGcとPomAの相互作用が変化し、回転方向が切り替わると考えられている。しかしながら、回転方向切り替えの際にFliGにどのような構造変化が生じるのかや、その際にどのように固定子と相互作用するかは明らかとなっていない。申請者は、回転子がCWとCCWに回転が偏っている状態での構造を明らかにすることで、回転方向切り替えにおけるべん毛モーターのエネルギー変換の仕組みを理解したいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
NMR法は、阪大蛋白研宮ノ入博士との共同研究を継続する。現在、安定同位体ラベルしたG215A変異FliG断片で得られたシグナルの帰属を進めており、完了後野生型(WT)及びG214S変異が導入されているFliGmc断片で取得できるシグナルとの比較を行う予定である。結晶化やNMR法では、必要に応じてほかの回転子を構成する因子(FliM)や固定子(PomA, PomB)の精製条件を検討し、FliG変異体にそれらを混ぜることにより、共結晶の取得や、シグナルの変化をとらえることを試みる予定である。また、Yale大との共同研究を継続し、「電子顕微鏡を用いたcryo-EM法による固定子の構造変化の可視化」を進める。具体的には野生型(WT), G214S変異, G215A変異を用いた回転子の構造情報を明らかにし、比較を行う予定である。現在、再渡航を計画中であり、予定では7月から8月の2か月を予定している。 さらに余裕があれば、昨年度はあまり取り組むことができなかった走化性因子及び、固定子が回転方向制御に与える影響も検証する。走化性因子(CheY)により回転方向制御への影響の検証は、回転方向切り替え頻度に異常がみられるFliG-E144D変異とCheYの変異を組み合わせることを検討している。固定子の研究では、イオンの流入と回転子との相互作用を結びつける変異体の作成を試み、解析する予定である。
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