研究実績の概要 |
バクテリアの運動器官であるべん毛は、時計回り(clockwise, CW)と反時計回り(counterclockwise, CCW)の両方向に回転することができるモーターである。モーターの回転は、固定子及び回転子と呼ばれるタンパク質複合体の適切な相互作用により、細胞膜内外の電気化学ポテンシャルを運動エネルギーに変換することで生じる。回転子中のC-ringは、3種類のタンパク質[FliG, FliM, FliN]からなり、2種類の膜タンパク質「PomA, PomB」からなる固定子との相互作用によるエネルギー変換と回転方向の決定に関わる。しかしながら、回転方向切り替えの際にFliGにどのような構造変化が生じるのかや、その際にどのように固定子と相互作用するかは明らかとなっていない。申請者は、Na+駆動型べん毛をもつビブリオ菌の回転子の、CWとCCWに回転が偏っている状態での構造を明らかにすることで、回転方向切り替えにおけるべん毛モーターのエネルギー変換の仕組みを理解したいと考えている。本年度は、これまでに取得できていた回転方向制御が異常になるFliG変異体を核磁気共鳴(NMR)法とクライオトモグラム(Cryo-ET)法を用いて構造解析を行った。 米国Yale大学所属Liu博士と共同研究しているCryo-ET法では、データの追加と昨年度までに得られていたデータの詳細な解析のために、本年度の6月から8月の約2か月間Liu博士の下に再渡航し、解析を進めた。現在も解析を継続している。 NMR法では、阪大蛋白研所属の宮ノ入博士と共同で、測定で得られたシグナルの感度が最もよかったG215A変異体の構造情報の取得を進めている。この途中経過を長浜バイオ大所属の土方博士、白井博士による分子動力学シミュレーションによるモデルと合わせて論文を執筆し、Sci Rep.にアクセプトされた。
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