研究課題/領域番号 |
17J11247
|
研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
阪井 祐太 福井大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
|
キーワード | 条件付きRenyiエントロピー / Fanoの不等式 / Gallagerの信頼性関数 / 多元ポーラ符号 / 多段分極現象 |
研究実績の概要 |
平成29年度においては、主に次の二つの研究成果をあげた。 (1)合同算術型消失通信路モデルの提案と、その通信路モデルの多段分極現象の漸近分布解析 本研究課題の主な研究対象である多元ポーラ符号について、未解決問題の一つである多段分極現象の漸近分布解析に着手した。雑音のある通信路の数学的モデルとして新たに「合同算術型消失通信路」を提案し、本テーマの問題設定として、これに対する合同算術演算に基づくポーラ符号を考えた。これまでの研究成果で国際会議 The 2016 IEEE Information Theory Workshop (ITW2016) にて証明した再起式に基づき、本問題設定における多段分極現象の計算可能な一表現を与えた。本結果は、情報理論で最も権威のある国際会議 The 2018 IEEE International Symposium on Information Theory (ISIT2018) にて採択され、次年度の6月に発表予定である。また、情報理論で最も権威のある論文誌 IEEE Transactions on Information Theory に現在投稿中である。 (2)Fanoの不等式の一般化:可算無限アルファベット、一般化条件付き情報量、リスト復号法への拡張 情報理論の符号化逆定理との関連の深いFanoの不等式を、有限アルファベット上の確率変数から可算無限アルファベットへと拡張し、条件付きRenyiエントロピーを含んだ一般化条件付き情報量へと拡張し、誤り確率の定義を一意的な復号からリスト復号へと拡張した。本結果により、条件付きRenyiエントロピーと誤り確率との関係性をより明確にした。本年度1月に情報理論で最も権威のある論文誌 IEEE Transactions on Information Theory に投稿し、現在査読コメントを受けて改訂中である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
多元ポーラ符号の研究において未解決問題の一つとされる多段分極現象の漸近分布解析は、多元ポーラ符号を定義する代数系の多様性を議論するために重要な理論解析の一つである。平成29年度の研究成果として、合同算術演算に基づく多元ポーラ符号において、多段分極現象の漸近分布の計算可能な一表現を合同算術型消失通信路に対して与えた。このことは、トイモデルに対する解析の成功を意味しており、一般の通信路に対する多段分極現象の漸近分布解析の足がかりとなることが期待される。本結果は、情報理論で最も権威のある国際会議 IEEE ISIT2018 にて採択されている。 ポーラ符号の符号構成には各情報点の信頼性を計算する必要があり、実用的な計算量でこれを行うためには、確率の近似計算アルゴリズムが必要である。平成29年度の研究成果として、2元ポーラ符号における2種類の最適な近似アルゴリズムに対して、行列のMonge性を利用したアルゴリズムの高速化がそれぞれ可能であることを証明した。本結果は、情報理論で最も権威のある国際会議 IEEE ISIT2017 と IEEE ISIT2018 にて採択されている。 条件付きRenyiエントロピーにより多元ポーラ符号を解析するにあたり、条件付きRenyiエントロピーと復号誤り確率の一般的な相関関係の解明に取り組んだ。平成29年度の研究成果として、条件付きShannonエントロピーと復号誤り確率との相関関係を特徴付ける「Fanoの不等式」を有限から可算無限アルファベットに拡張し、条件付きShannonエントロピーから条件付きRenyiエントロピーを包含する一般化条件付き情報量へと拡張し、一意的な復号法からリスト復号法へと拡張した。本結果は、情報理論で最も権威のある論文誌 IEEE Transactions on Information Theory に投稿中である。
|
今後の研究の推進方策 |
平成30年度の研究方針として、次の3つのサブテーマの達成を目指す。 (1)一般的な離散無記憶通信路に対する多段分極現象の漸近分布解析:平成29年度は、合同算術型消失通信路に対する多段分極現象の漸近分布を定式化したが、この通信路は非常に限定的なモデルであるため、より一般的な確率構造を有する離散無記憶通信路に対する多段分極現象の漸近分布を解析することが、あらゆる通信システムに対する多元ポーラ符号の評価につながる。したがって、前年度の解析手法の拡張を考え、本テーマの解決を目指す。 (2)合同算術演算に基づく多元ポーラ符号から、有限群に基づく多元ポーラ符号への解析対象の拡張:平成29年度までは、合同算術演算に基づく多元ポーラ符号に対する解析を行った。これは、有限巡回群に基づくポーラ符号の解析と同型である。一方で、送信者が複数存在する通信システムにおけるポーラ符号を解析するためには、有限アーベル群の基本定理より、有限巡回群から有限アーベル群への代数系の拡張が必要である。任意の有限群に基づく多元ポーラ符号の多段分極現象の解析の足がかりとして、正規部分群が構成するモジュラー束の性質にまずは着目し、漸近分布を調べる。 (3)一般化Fanoの不等式による符号化逆定理の再考:Fanoの不等式は、情報理論においてある性能を達成する符号の伝送率限界を特徴付ける「符号化逆定理」の証明の鍵となる補題であり、平成29年度の研究成果として一般化したFanoの不等式によって、符号化逆定理の拡張、別証明、または改良が見込まれる。この一般化したFanoの不等式による符号化逆定理の考察を行うことで、多元ポーラ符号の性能限界を議論する数学的な基礎の構築を目指す。
|