研究課題
本研究課題では、RNAの生理機能を解明するための手法開発を目指す。開発する手法は、標的RNAを認識するためにRNA結合タンパク質PUMを用いることとしたが、その前提として、内在性PUM自体の機能を解析することを第一の目的とした。申請者は初年度に48 mRNAがPUMにより 分解されるRNAと実験的に同定した。さらに、CDDPやCPTといったDNA損傷を誘起する抗がん剤を投与した細胞で、PUMが減少しPUM分解標的が増加することが分かった。本年度は、同定した抗がん剤がPUMの減少およびPUM分解標的の増加を誘起することを実験的に確認するために、CDDPを投与した細胞におけるタンパク質とRNA量を解析した。ウェスタンブロットの結果、CDDP添加時にPUMタンパク質が消失することが分かった。一方、qPCRによりRNA量を解析した結果、PUM分解標的mRNA量(PCNAやUBE2A mRNAなど)が上昇した。PUM減少により増加するPCNAやUBE2A mRNAなどは損傷組み換え修復に関与していることが分かっている。そこで、実際に損傷組み換え修復が活性化するかどうかを検証した。CDDPを添加した際にPCNAがPUM減少依存的にユビキチン化することが分かった。このユビキチン化されたPCNAがPolηを損傷したDNAに局在させることを細胞内の局在解析によって明らかにした。DNA伸長を定量化できるBrdU-ELISAを用いてCDDP添加後のDNA伸長を測定した結果、PUM過剰発現細胞ではDNA伸長が阻害されていた。一連の結果から、CDDPが添加されるとPUMが減少することでPCNAやUBE2A mRNAなどが上昇し、損傷組み換え修復が活性化することで細胞が生存することが分かった。
1: 当初の計画以上に進展している
申請者は、細胞内のRNAを解析するための手法開発に取り組んでいる。計画していたRNA結合タンパク質PUMを用いたプローブ開発とともに、PUM自体の機能研究を遂行している。申請者は大規模シークエンス解析の結果、PUMが結合し分解するmRNA(標的mRNA)を48種同定することに成功した。さらに情報解析により、DNA障害を誘起する抗がん剤投与時にPUMが減少することで、標的であるPCNA mRNAやUBE2A mRNAなどDNA修復に関連するmRNAが安定化し細胞内の存在量が増加することを示した。さらに、PCNAなどの上昇が損傷乗り換え修復の経路を活性化することを解明した。この研究では、今までの手法では解明できなかったPUMの生理的機能(DNA修復におけるPUMの果たす役割)を解明することに成功した。PUMが抗がん剤への抵抗性と関連しているという事実は、ガン治療において重要な知見となり得る。申請者の研究は、将来的にはPUMを含むRNA分解機構が抗がん剤治療の対象となることを示唆しており、医歯薬学分野への貢献が期待される。現在は,論文を投稿している段階で、これは当初の計画より早い。また、国際学会でも、RNA分解やRNA結合タンパク質の研究者から高評価を得られており、当初の計画以上に進展していると判断した。
PUM自体の機能解析研究においては本年度中の論文掲載を目指す。また、RNA結合タンパク質PUMを用いたプローブ開発については、核内RNAの分解を実現させる。具体的には、核局在シグナルを付加した16塩基認識PUM-HDに様々なRNAヌクレアーゼ(XRN1など)を融合させ、RNA分解プローブを作製する。さらに作製した各々のRNA分解プローブの性能を評価する。培養細胞にRNA分解プローブを導入した後RNAを抽出する。その中で、最も標的RNAの量が減少していたプローブを採用する。開発したRNA分解プローブを用いてTERRAやNEAT1を分解し、プローブの性能を評価する。
すべて 2019 2018
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 2件)
WIREs RNA
巻: 10 ページ: e1508
https://doi.org/10.1002/wrna.1508
The EMBO Journal
巻: 37 ページ: e97723
https://doi.org/10.15252/embj.201797723