研究課題/領域番号 |
17J11405
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
渡邊 敬介 横浜国立大学, 工学府, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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キーワード | バイオセンサ / バイオマーカ / ラベルフリー / フォトニック結晶 / ナノレーザ / 表面電荷 |
研究実績の概要 |
本研究ではGaInAsP半導体の発光が表面電荷によって変化するという新奇な原理に基づいて、光励起で動作するナノレーザのバイオセンサとしての応用検討と精神神経疾患バイオマーカ検出を目指している。特に、血液中のバイオマーカ診断デバイスとしてナノレーザセンサを研究しており、この原理を用いれば、蛍光や酵素標識などのラベルが不要で、スペクトル分析も不要な簡易なセンサになりうる。本年度は、アルツハイマー病や統合失調症などの精神神経疾患のバイオマーカとなる可能性が報告されているタンパク質であるCRMP2 (Collapsin Response Mediator Protein 2) の検出によって、本手法の有用性を実証すること、表面電荷への応答性であるイオン感応性の向上の検討を行った。本手法では、発振強度のSN比が比較的小さかったが、測定点の平均化処理や位置揺らぎに対するトレランスを向上させるための光学系を構築することで、ノイズを抑制した。また、タンパク質がセンサ表面に吸着する際の表面電荷を増大させるために、陰イオン性の界面活性剤をタンパク質と反応させ、強制的に負に帯電させる処理を加えることで、末梢血に含まれるCRMP2を検出するのに最低限必要な濃度で検出できることを確認した。さらに、GaInAsP半導体のフォトルミネッセンスに着目し、イオン感応性を向上させるための検討を行った。半導体に蜂の巣構造型フォトニック結晶構造を導入し、より大きな表面積体積比と光の取り出しが得られる構造を時間領域差分法によって予測した。その結果、表面電荷への応答が表面再結合レートに依存して変化する理論と実験がほぼ一致し、、フォトニック結晶がない構造と比較して6-7倍のイオン感応性の増大を確認した。以上から、本手法を用いた、より簡易で高感度な新規ナノバイオセンサへの展開を示唆する結果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実施計画では、センサ表面の理論的な予測とそれに基づく感度の最適化、医療応用の加速であった。まず、センサ表面のイオン濃度やpHを変化させた変化を観測すると、理論から予測される表面電荷密度とほぼ一致する結果が得られ、センサの応答が確かに表面電荷密度変化に対応することがわかった。次に、 GaInAsP半導体に蜂の巣構造型のフォトニック結晶構造を導入し、その構造パラメータを最適化することで、表面積体積比と光取り出し効率が増大することを確認し、この際に小さな励起パワーで動作させることで、表面再結合レートの増大により大きなイオン感応性が得られることを実証した。この結果から、より高感度なバイオセンシングが可能となることを示した。また、医療応用の加速として、精神神経疾患のバイオマーカとして期待されるCRMP2の検出を試みた結果、一度の採血で得られる末梢血中に発現しているCRMP2に対応する濃度での検出が可能であることを確認した。以上より、本研究の到達目標はおおむね達成し、順調に進展していると自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
表面電荷センサとしてのGaInAsP半導体のセンシング原理の詳細な理論をまとめ、バイオマーカ検査デバイスとしての有効性を示すための実験をさらに進める。今回、GaInAsP半導体のフォトルミネッセンスにおいて、大きな光の取り出し、表面積体積比をもつフォトニック結晶構造の導入により、感度が増大することを確認し、理論とも一致する結果が得られたが、レーザ発振光においても、同様の結果が得られると考えられる。一方、センシング応用を考えたときに、どちらがより大きなSN比が得られるかどうかは今後検討が必要である。そこで、フォトルミネッセンス、レーザ発振光の両者についてセンサ特性を検討し、本手法の新規性、優位性を証明する。また、医療応用を加速させるため、CRMP2を実際にヒト検体から取得し、簡易で高感度に検出することを示す。現状、血液サンプルを用いる場合には、血液中の夾雑物などの影響を受けると考えられるため、センサ表面の最適化法を検討する。並行して、CRMP2のバイオマーカとしての有効性やその生物学的役割を明らかにする。
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