研究課題/領域番号 |
17J11420
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
夏目 芽依 東京大学, 薬学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | GPCR / Gタンパク質 / 構造生物学 |
研究実績の概要 |
Gタンパク質共役型受容体 (GPCR) のシグナル伝達経路には、Gタンパク質を介した経路とアレスチンを介した経路がある。本研究では生理的条件下で、アレスチン、またはGタンパク質が結合した受容体の動的構造を取得しそれらを比較することで、受容体の構造の違いを得ることにした。 本年度は、GPCRの一種であるβ2アドレナリン受容体 (β2AR) について、Gタンパク質結合状態の構造を解析した。Gタンパク質には、mini-Gsを用いた。mini-Gsとは、αサブユニットのうちGPCRと結合するドメイン部分のみを切り出した変異体であり、Gβγ非存在下でGPCRと強固に結合することがChris Tate (MRC) らによって報告されている。メチオニン側鎖メチル基を13C標識したβ2ARを再構成高密度リポタンパク質の脂質二重膜に再構成したβ2AR-rHDLに対して、精製したmini-Gsを添加して1H-13C HMQCスペクトルを取得した。 その結果、mini-Gs結合状態では5残基全てに対応するシグナルを観測した。得られたスペクトルを、これまでに取得したアレスチン結合状態のスペクトルと比較すると、細胞内側に位置するM215のシグナルが、アレスチン結合状態よりも1H方向高磁場側へシフトしていた。M215の1H化学シフトは膜貫通ヘリックス6 (TM6) に存在するF282の環電流効果によって決まり、TM6が外側へより開いた構造を取るほど、高磁場シフトする。このことから、Gタンパク質結合状態の方が、アレスチン結合状態よりも、TM6が開いた構造を取っていると考えた。 以上の結果から、2種類のシグナル伝達経路では、TM6に違いがあることが示された。このことは、GPCRのTM6の開き具合によって、選択的なシグナル伝達の活性化を説明できることを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では、平成30年度はGタンパク質結合状態の受容体の構造情報を得ることを目標としていた。その結果、三量体Gタンパク質のうちのαサブユニットの一部を改変した変異体を用いて、GPCRのGタンパク質結合状態の構造解析を進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題では、β2ARの選択的なシグナル伝達活性化機構を解明することを目的とする。そのために、現在は、クラスAGPCR間でよく保存されているモチーフに着目している。DRYモチーフやNPxxYモチーフといった、活性化に重要なモチーフには、チロシン残基が多く含まれている。これらのモチーフに関する構造情報を取得するため、本年度は、これまで観測していたメチオニン残基に加えて、チロシン残基も同時に観測できる方法を確立する。その方法を用いて、一方の経路に変調を与える変異体に関する膜貫通領域の構造情報を取得する。 受容体は、昆虫細胞発現系を用いて、メチオニン側鎖メチル基、およびチロシン主鎖アミド基を選択的に標識した受容体を調製する。NMRスペクトル中のチロシン残基の帰属は、変異体を用いて解析を進める。しかし、保存されたチロシン残基は変異により発現の低下や受容体構造への影響が予想されるため、帰属が困難である可能性もある。変異体による解析が困難だと判断した場合には、選択的なアミノ酸の重水素化による帰属を試みる。 帰属が概ね完了したら、実際に、シグナル伝達経路のうち、Gタンパク質を恒常的に活性化する変異体、あるいは、Gタンパク質の恒常的な活性化に加えて、アレスチン経路を活性化しない変異体について、1H-13C HMQCスペクトル、および1H-15N TROSYスペクトルを取得する。得られた結果のうち、各メチオニン、あるいは各チロシンのシグナルの化学シフト値や強度を解析し、それぞれの変異体の構造を考察する。得られた構造情報を実際のシグナル伝達活性と関連づけることで、シグナル伝達と受容体の構造の関連性を見出す。 得られた情報、およびこれまでに得たエフェクター結合状態に関する構造情報を照らし合わせて、Gタンパク質、あるいはアレスチン経路に重要な受容体の構造を解明する。
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