Gタンパク質共役型受容体 (GPCR) のシグナル伝達経路には、Gタンパク質を介した経路とアレスチンを介した経路がある。本研究では、シグナル伝達活性に変調を与える変異体のマイクロスイッチの構造変化を解析することで、GPCRが複数のシグナルを活性化する構造基盤を明らかにすることにした。 まずは、マイクロスイッチのうち、DRYモチーフ、NPxxYモチーフ、Y5.58の構造変化を検出するために、チロシン主鎖アミド基を選択的に15N標識したβ2ARの1H-15N TROSYスペクトルを測定し、マイクロスイッチを構成するY132、Y219、Y326由来のシグナルを帰属した。その結果、作動薬結合状態の3残基のシグナルは、逆作動薬結合状態よりも広幅であった。この結果は、作動薬結合状態の各マイクロスイッチには構造多型が存在することを示唆している。 次に、アレスチン活性が選択的に低下したL124G変異体のモチーフの構造を明らかにするために、L124G変異体の作動薬結合状態の各残基由来のシグナルを野生型と比較した。その結果、L124G変異体のY132とY219由来のシグナルは、線幅の減少に伴って、野生型よりもシグナル強度が上昇した。この結果は、L124G変異体のDRYモチーフやY5.58は、作動薬結合状態の野生型で存在していた構造多型が抑制されていることを示唆している。この結果から、L124の側鎖の体積を小さくすることによって、DRYモチーフとY5.58の構造多型が抑制されたと結論した。 以上の結果を踏まえ、作動薬が結合した β2ARは、L124のかさ高い側鎖に構造多型が生じ、DRYモチーフとY5.58へ伝搬することで、DRYモチーフとY5.58がGタンパク質やアレスチンが認識できる別々の複数の構造の間の平衡状態になり、複数のシグナルを活性化するという構造基盤を提唱する。
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