研究課題/領域番号 |
17J11445
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研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
稲垣 僚 静岡県立大学, 薬食生命科学総合学府, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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キーワード | グリシドール / ヘモグロビン付加体 / アルコール摂取モデルマウス / 糖尿病モデルマウス |
研究実績の概要 |
これまでに我々は、グリシドール脂肪酸エステルを中心としたグリシドール関連物質に関して、その食品における摂取暴露源の探索から実験動物を用いた毒性評価についての研究を遂行してきた。本年度の研究では、これらの知見をヒトでのリスク評価に用いるために、生体内指標による個体間での摂取暴露量の推定を目指した。我々はヘモグロビンN末端のバリンと結合したグリシドール及び関連物質のヘモグロビン付加体を測定することで、暴露量の推定が可能となるか評価した。 初めに、野生型ICRマウスにグリシドール、グリシドール脂肪酸エステル及び関連物質である3-モノクロロプロパンジオール、エピクロロヒドリンを投与し、血中のヘモグロビン付加体をLC-MS/MSを用いて、定量した。ここでは、フルオレセインイソチアシアネートを用いて、誘導体化処理を行うことで、高感度な測定を実現した。グリシドール及びグリシドール脂肪酸エステルを投与したマウスでは、濃度依存的にグリシドールヘモグロビン付加体の形成がみられた。その他の物質では、実験動物上での付加体検出がみられなかったが、血液との反応性をみた試験では、グリシドールに比べ、3-モノクロロプロパンジオールから1000倍程少ない量のグリシドールヘモグロビン付加体が検出され、これら物質がグリシドールヘモグロビン付加体量に与える影響は少ないことが明らかとなった。 続いて、ヒトでの生活要因がヘモグロビン付加体量に影響を及ぼすか検討するため、アルコール摂取マウス及び糖尿病モデルマウスを用いて、ヘモグロビン付加体量が変動するか試験を行った。これまでにグリシドールと同様に加熱した食品中に含まれるアクリルアミドでは、生体内の代謝要因や糖化ヘモグロビン等の生成量によって、ヘモグロビン付加体量に影響を及ぼすことが示唆されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
この年度では、ヘモグロビン付加体量の測定に関して、バリンと関連物質からのヘモグロビン付加体の合成やGC-MS/MSをLC-MS/MSに変更する等の測定法の改良による感度の上昇に努めてきた。特にLC-MS/MSを用いた測定に関しては3社の質量分析器を比較検討したことで高感度を実現し、今後の行う予定であるヒト試験での測定限界の向上につながった。実験動物を用いた試験では、グリシドールは投与濃度依存的にヘモグロビン付加体を形成し、その脂肪酸エステル体はこれまでの生体内代謝の知見を報告する論文類と比較しても類似した代謝率及び反応性を示し、その代謝量に関しての知見を補足することが出来た。3-モノクロロプロパンジオールやエピクロロヒドリンによるグリシドールヘモグロビン付加体検出への影響はみられず、これらからもグリシドールの暴露指標としての有用性が評価できた。しかし、過去の文献では血液中に背景的に検出されていたエピクロロヒドリンヘモグロビン付加体やグリセルアルデヒド付加体に関して、今回我々のいずれの関連物質を投与した試験でも検出されなかったため、GC-MS/MSからLC-MS/MSへの変更に伴う誘導体化試薬やpHの変更等の測定への影響を精査するべきである。 また、ヘモグロビン付加体の検出に関わる背景的な部分として、新たな変動要因を見出すことが出来た。これまでにグリシドールを投与した試験は未だ行っていないが、アクリルアミドを投与した際のアルコール摂取モデルマウス及び糖尿病モデルマウスにおけるヘモグロビン付加体量の変動が確認できたことは、ヘモグロビン付加体に関する研究全体を推し進める重要な知見となり得ると考えられる。これら研究を進めることで、生体内での反応性化学物質の解毒機構に関わる薬物代謝酵素の発現量等を含めて、毒性研究における重要な知見となることが期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
グリシドール関連物質の食品中の含有量や実験動物での毒性情報をヒトでのリスク評価に転じるために、これまでに構築した血中グリシドールヘモグロビン測定法を用いて、これら生体内指標の有用性について、検討する必要がある。静岡県立大学倫理委員会の承認を受けた後に、健常な被験者を募り、その血中に含まれるヘモグロビン付加体量を測定することで、個人間変動及び個体内変動に関しての知見を得る。その後、食用油を使用している若しくは加熱した食肉類を摂取してもらう介入試験を実施し、これら食事由来のグリシドール関連物質が生体内指標に影響を及ぼすか検討する必要がある。高感度の測定による有意な差が得られた場合には、これら付加体量から摂取量の概算を試みる。 また、ヘモグロビン付加体の暴露指標としての有用性を検討するために、単体のヘモグロビンとグリシドール関連物質等の反応性化学物質をカロリメトリー測定により反応性を評価する。結果に応じて、バリン等やその他の成分との結合性を評価し、付加体検出の可能性を探る。前述した生体内の薬物代謝酵素を変動させる食事習慣や生活習慣病状態でのヘモグロビン付加体の変動に関しても、グリシドール関連物質を含むいくつかの反応性化学物質を検討することで、ヘモグロビン付加体の有用性に関する重要な知見を明らかにする。結合を阻害若しくは増進する作用を確認するために、血液やヘモグロビン及びバリンを用いて、夾雑状態下での反応性を評価する必要もある。 最終的にはこれまでのグリシドール関連物質に関する包括的な研究内容を暴露マージン等の指標に換算し、リスク評価をまとめる必要がある。そのためにも、食事由来の摂取量に関して、生体内指標以外のアプローチとして、陰膳法を用いた食事全体のグリシドール関連物質の含有量等も評価する必要がある。
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