我々ヒトは様々な場面で他者と協力する。募金やボランティアでは『未知の他者』に対してさえも向社会的に振る舞う。ヒトの強い向社会性が『どのようにして』、そして『どうして』進化してきたのかの解明は進化生物学に留まらず、人類学・社会科学においても非常に重要な課題である。最近、ヒト以外の研究では霊長類や小型の社会性ほ乳類たちで彼らがどのような向社会性を持つかについて特別に開発された実験的手法によって調べられはじめている。動物のもつ向社会性を調べる代表的手法が向社会的選択課題(PCT)である。PCTでは実験個体に自身と実験パートナーの両者が報酬を受け取れる『向社会的選択肢』と自身のみが報酬を受け取れる『利己的選択肢』の両者を提示し、実験個体がどちらを選ぶかを調べる。このような実験的な状況での二者択一という課題で実験個体が『向社会的選択肢』を好む場合、その向社会性を引き起こす『心理的動機』の存在を想定できる。 そこで私は霊長類などで用いられるPCTを改良し、魚類に適応可能な実験システムを構築したうえでPCTが魚類に適応可能か実験を行った。2つのボックスに同時に報酬である餌を入れ、実験個体が『向社会的選択肢』のボックスの中で報酬を食べた場合、実験個体は『向社会的選択肢』を選んだとみなし実験パートナーにも報酬を与える。一方実験個体が『利己的選択肢』を選んだ場合、実験パートナーには報酬を与えない。成熟したオス個体を実験個体、実験個体の繁殖相手であるペアメスを実験パートナーとしてこのような選択実験を予備実験として行った。その結果、驚くべきことにペアメスを提示水槽に入れた実験では、実験個体の『向社会的選択』の割合は日毎に増加した。また、実験に用いたすべての実験個体は、期待値と比較して有意に高い割合でメス個体に餌が与えられる『向社会的選択肢』を好むことがわかった。
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