研究課題/領域番号 |
17J11507
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研究機関 | 長浜バイオ大学 |
研究代表者 |
丸谷 飛之 長浜バイオ大学, バイオサイエンス研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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キーワード | マイトクリプタイド / ホルミルペプチド / ミトコンドリア由来の傷害関連分子パターン / 好中球 / 炎症 / 自然免疫 |
研究実績の概要 |
最近、非感染性の炎症を起こす因子として、ミトコンドリア由来の傷害関連分子パターン(MTDs)という分子群の概念が提起されている。このMTDsの活性因子としてミトコンドリアDNA (mtDNA)とホルミルペプチドが考えられていたが、ごく最近、高度に精製されたmtDNAは好中球を活性化しないことが報告された。一方、MTDs中のホルミルペプチドは未だ同定されていない。そこで本研究では、我々が生体から同定したmitocryptide-2(MCT-2)を含む内因性ホルミルペプチドに対する特異的モノクローナル抗体(MAb)を作製し、それらを用いることで、MTDs由来のホルミルペプチドを同定し、その受容体を含む情報伝達機構を明らかにすることを目的としている。平成29年度は下記の2点について検討した。 1)MCT-2に対する特異的なMAbを獲得し、それを用いて、MTDsにおけるMCT-2の存在を検討した。その結果、MTDs中にMCT-2またはその誘導体が存在している可能性が示唆された。 2)ホルミルペプチドを認識する受容体として好中球に発現しているformyl peptide receptor 1(FPR1)およびそのホモログformyl peptide receptor 2(FPR2)のリガンド認識機構の解析を行なった。すなわち、まずFPR2と特異的に結合し活性化するMCT-2の構造活性相関を検討した。その結果、MCT-2がその受容体を活性化するのに必要な最小構造がMCT-2(1-7)であること、さらにN末端ホルミル基ならびに1位Metが活性発現に必須であることを見出した。加えてMCT-2のどのような構造的特徴がFPR1とFPR2の受容体選択性に関与しているのかを検討した結果、MCT-2の鎖長が短くなることによりFPR2に対する特異性が失われ、むしろFPR1と結合し活性化することが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成29年度の研究計画では、我々が生体から同定したMCT-2を含む内因性ホルミルペプチドに対する特異的MAbを作製し、それらを用いることで、MTDs由来のホルミルペプチドを同定することを目標としていた。これに対し本年度の研究により、MCT-2をはじめとした3種類の内因性ホルミルペプチドに対する特異的中和MAbsの取得に成功した。さらに、取得したMAbsのうちMCT-2に対する特異的MAb、NhM2A1を用いて、MTDsにおけるMCT-2の存在を検討したところ、MTDs中にNhM2A1に対する免疫活性が存在することが示され、MCT-2あるいはその誘導体がMTDs中に存在している可能性が示唆された。現在、研究目標を達成するため、MTDsに存在するMCT-2の化学構造を解析するとともに、MCT-2以外のホルミルペプチドの存在や分子形態についても検討を進めている。 また本年度は、次年度で計画していた、ホルミルペプチドを認識する受容体として好中球に発現しているFPR1とそのホモログFPR2のリガンド認識機構の解析も行なった。すなわち、まずFPR2と特異的に結合し活性化するMCT-2の構造活性相関を検討した結果、MCT-2がその受容体を活性化するのに必要な最小の構造がN-ホルミル基を含む1位から7位であること、N-ホルミル基と1位Met側鎖が活性発現に必須であることが示された。さらにMCT-2のどのような構造的特徴がFPR1とFPR2の受容体選択性に関与するのかを検討した結果、MCT-2の鎖長が短くなることにより、活性化する受容体がFPR2からFPR1にシフトすることが示された 以上のように、本研究は当初の計画以上に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の検討により、MTDs中にMCT-2が存在する可能性を示すとともに、MCT-2の鎖長がFPR1ならびにFPR2の受容体選択性に関わっていることを見出した。今後は、MTDsに存在するMCT-2の化学構造を解析するとともに、MCT-2以外のホルミルペプチドの存在や分子形態の解明を目指す。また、FPR1ならびにFPR2が生体内において、それぞれどのような役割を担っているのかを明らかにすることも試みる。 1) MTDsに由来する内因性ホルミルペプチドの同定: MTDs中に存在するMCT-2あるいはその誘導体について、NhM2A1の免疫活性を指標に、各種クロマトグラフィーを用いて精製し、質量分析やエドマン分解法により化学構造を決定する。また、すでに複数種のMCT-2以外の内因性ホルミルペプチドに対する特異的中和MAbsの獲得にも成功しているが、それらを用いることで、他の内因性ホルミルペプチドの同定も試みる。 2) 傷害モデルにおけるFPR1ならびにFPR2の関与: 肝傷害をはじめとした非感染性の傷害モデルを作製し、FPR1ならびにFPR2特異的拮抗阻害薬を用いて、内因性の傷害におけるFPR1ならびにFPR2の役割を検討する。また、MCT-2をはじめとした内因性ホルミルペプチドに対する特異的中和MAbsを用いることで、非感染の傷害における内因性ホルミルペプチドの関与も検討する。
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