研究課題
糖尿病の合併症である糖尿病性腎障害(DKD)は、末期CKDで施行する透析導入の原因として第一位であり、健康寿命や医療経済に悪影響を及ぼすため、予防医療が求められている。しかし、従来の尿中微量アルブミンによる診断では、すでに腎障害が発症しており、より早期の診断が求められている。よって、糖尿病患者におけるヒト血清アルブミン(HSA)の翻訳後修飾体を解析することで、DKDの早期診断に有用であるかを約300検体のサンプルを用いて検討した。その結果、腎機能低下前のステージより、未修飾HSAの低下とCys-HSAの上昇が観察された。その際、臨床で汎用されるHbA1cは変動しなかったため、DKDのスクリーニングとしてHSA翻訳後修飾体の測定が有用であることを示した。また、脂質は、エネルギー源や生体膜成分、シグナル分子といった脂質の機能に大きく影響する。特に、脂肪酸は側鎖の炭素鎖長や不飽和度によって異なる活性を示す。そのため、腎病態の発症や進行に関与する脂肪酸の同定は、新規腎疾患治療の標的となると考えた。昨年度の検討から、腎障害時にステアリン酸(C18:0)が増加しており、その生体内の合成酵素であるElovl6の発現も亢進していることを示した。本年度は、このElovl6発現の亢進が、腎組織中の尿細管で誘導されていることをin situ hybridization法で示し、HSAの酸化修飾体であり腎障害時に増加するAdvanced Oxidative Protein Products (AOPPs)によって誘導されることを、ヒト近位尿細管上皮細胞(HK-2細胞)へのAOPPs添加実験及びICRマウスへのAOPPs連日腹腔内投与実験により明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
今年度は、糖尿病患者におけるヒト血清アルブミン(HSA)への翻訳後修飾体が、腎症のステージ進行に伴い増加することを、約300検体の患者サンプルを用いて実証し、論文を投稿準備中である。さらに、腎組織中の脂肪酸組成変動による腎障害メカニズムへの影響については、腎障害時に共通した腎組織中の脂肪酸組成変動を誘導する因子が腎障害時に増加するアルブミン酸化修飾体により発現が亢進することを発見した。このように、研究は順調に進展している。
今年度は、ヒト血清アルブミン(HSA)の翻訳後修飾体を解析について健康診断患者を対象に行うことにより、病態発症前の健康な状態から将来の病態を予測可能であるのか検討を行う。すでに共同研究先の病院より、検体の提供と臨床研究の承認を経ているため、研究が可能である。さらに、食生活における脂質と病態の関係については、昨年度の研究より、ステアリン酸(C18:0)が病態に関連することを示すことができたため、C18:0を多く含む餌を摂餌させたマウスが、尿細管障害を誘導するのかを検討し、食生活が影響する腎障害に脂肪酸の質的変動を基軸とした新たな知見を提唱する。
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Scientific Report
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10.1038/s41598-018-35339-x.