研究課題/領域番号 |
17J11657
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
立石 大 熊本大学, 薬学教育部, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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キーワード | HIV / Gag蛋白質 / L-HIPPO / イノシトールリン脂質 |
研究実績の概要 |
本研究で開発したL-HIPPOは今までにない新しい機序で抗HIV効果を示す。感染細胞からのウイルス放出には、ウイルスの骨格となるGag蛋白質が重合し粒子を形成することが大切であるが、L-HIPPOはその粒子形成段階を阻害することにより、ウイルスを感染細胞内に閉じ込める。このメカニズムは今までにない新しいものであり、さらに長時間ウイルスの放出を抑えると、感染細胞に細胞死を誘導することを見出し、この現象をLock-in-apoptosisと命名した。現在Lock-in-apoptosisの誘導メカニズムを確認中であるが、L-HIPPOの細胞内導入率が低いことから、まずはじめに膜透過性を向上させたpro-drug L-HIPPOの合成を行うこととした。pro-drug L-HIPPOの合成は間も無く完成する予定である。その後Lock-in-apoptosisのメカニズムを解明する予定である。さらにより選択的かつ強くGag蛋白質結合する阻害剤の設計・合成を行うために、L-HIPPOの結合様式を共結晶にて確認することとした。Gag蛋白質のMAドメインとL-HIPPOの結晶は得られており、解析を進めていく予定である。今日のHIV治療は薬でコントロールできるほど発展したが、体内からのウイルスの除去が難しいため、薬を一生飲み続ける必要がある。本研究のLock-in-apoptosisはこの問題点を克服できると考えられ、実用化を目指していく予定である。 学術論文等の報告は、平成29年にL-HIPPOの開発法や抗HIV効果さらにはLock-in-apoptosisに関する内容をまとめ、Scientific Reportsに投稿した。さらに論文投稿後、熊本日日新聞や朝日新聞にもLock-in-apoptosisに関する内容を掲載した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず始めに、平成29年度に計画していたアポトーシス誘導メカニズム解明を行う前に、T細胞株でも同様の現象が確認されるか検討したところ、わずかであるがアポトーシスの誘導が確認された。そこで、学術振興会DC2申請内容とT細胞株での実験結果をまとめScientific Reportsに投稿した。この時に、di-C7-L-PIP5をL-HIPPOと命名したため以後L-HIPPOとする。次にメカニズムの解明を行うことを検討したが、T細胞株へのL-HIPPOの導入効率が低いため、シグナル解析が困難であると判断し、平成30年度に予定していたpro-drug体の合成を先に行うこととした。現在L-HIPPOの合成は順調に進んでおり、間も無くpro-drug体の合成が完了すると予想される。 次に、MAとL-HIPPOの共結晶作成について、まずMA蛋白質の発現・精製の検討を行った。MA蛋白質にHisタグとTEVプロテアーゼ認識部位を導入したコンストラクトを設計し、大腸菌BL21株に形質導入後、大腸菌を回収し、破砕、Ni-NTAビーズで精製したのち、TEVプロテアーゼでHisタグを切断、ゲル濾過カラムで精製を行った。この方法によりMA蛋白質を高純度で得ることに成功した。精製したMA蛋白質を使用してL-HIPPOとIP6(L-HIPPOの脂質部位がない誘導体)との共結晶の作成を試みた。IP6を用いた理由は、脂質の有無によりMA蛋白質との結合解離定数が100倍異なるため脂質の重要性を明らかにするためである。L-HIPPOとIP6両方において共結晶の作成に成功した。さらに結合に関与していると考えられるアミノ酸に変異を導入した蛋白質を16種類作成し、IP6とL-HIPPOそれぞれで結合への影響の確認まで終了している。
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今後の研究の推進方策 |
1.今後の研究推進方策は、まずprodrug化L-HIPPOの合成を行う。高スケールでL-HIPPOの合成を行い、prodrug化に十分な量を得ることができたため、エステラーゼにより切断され活性体になるリン酸基を導入し、目的化合物であるprodrug L-HIPPOを合成する予定である。その後、prodrug L-HIPPOを用いてHIV感染細胞でのLock-in-apoptosisのメカニズムを調べる。 2.次に、L-HIPPOとMA蛋白質の共結晶からより選択的かつ強く結合する阻害剤の設計・合成を行う。さらに今回用いたIP6とMA蛋白質との共結晶とDSF実験より、IP6はMA蛋白質を安定化しているということが判明した。IP6は生体内に多く存在していることもあり、HIV感染細胞でウイルスの放出に関与してることが示唆された。平成30年度の研究計画表では記載していなかったが、IP6のウイルス放出への影響を調べていく予定である。 3.最後にL-HIPPOと転写活性化薬を用いて休眠状態のHIV感染細胞の除去を行う。HIV感染細胞にはウイルス感染はしているものの、HIVウイルスを産生しない休眠細胞が存在する。そのような細胞に対して転写活性化薬を用いてHIVウイルスを転写・ 翻訳したのちに、L-HIPPOで細胞死を誘導するようなKick and Kill療法の開発を行う。
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