研究課題/領域番号 |
17J30007
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
久保田 晋平 東京大学, 医学系研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 組織透明化 / シングルセルバイオロジー / がん転移 / がん微小環境 |
研究実績の概要 |
透明化技術は、近年もっとも注目を浴びている生命科学関連技術の一つであり、国内外の様々な研究グループが生体組織透明化に取り組んでいる。特に神経科学研究の分野において応用されており、マウス脳の透明化は新たな知見を生み出し始めている。申請者らの開発した透明化試薬は、光の散乱因子である脂質を高度に除去する性能に加えて、光を吸収するヘムを代表とする生体色素を高効率に脱色する性質を有しているため、既存の透明化技術と比較して、全身の様々な臓器に適用可能な透明化試薬である。申請者は自身が報告した透明化手法を光の散乱の観点から最適化することによって、成獣マウスの全身一細胞解像度イメージングを可能とする透明化試薬を開発した。開発した透明化試薬はヘム、ミオグロビンなどを始めとした生体色素を溶出することによって光吸収を抑制し、脂質を取り除いた後に高屈折率溶媒で屈折率を均一化することによって光散乱を抑制する。この新規透明化試薬は既存の手法では困難であった成獣マウスの一細胞解像度イメージングに必要な透明度を達成した。この透明化手法をさまざまなマウスがん転移モデルへと応用することにより、全身のがん微小転移の一細胞解像度イメージングに成功した。このように開発した組織透明化手法を生物発光イメージングや病理学的な解析といった従来の手法と組み合わせることにより、臓器・個体レベルでの網羅的1細胞解析の基盤技術を構築した。この技術は今まで捉えきることができなかったがん転移を臓器・個体レベルで正確に捉え、抜本的治療に資する先駆的技術となることが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
申請者らが2014年に開発した透明化手法は幼生マウスの全身一細胞解像度イメージングを可能にしたものの、成獣マウスの全身一細胞解像度イメージングおよび様々な臓器に生じるがん微小転移の可視化に応用することは困難であった。そこで光の散乱を抑制するという観点から透明化手法を改良に取り組み、成獣マウスの全身・全臓器を高度に透明化する手法を開発した。この透明化手法を腎癌同所移植モデルマウスに対して応用することによって、肺や腸管など全身に疎に存在するがん微小転移巣を一細胞解像度で観察することを可能とした。また本手法は14種類のマウスがん転移モデルに応用することが可能であり、脳、肺、肝臓、腸管などへのがん転移を包括的観察することが実現した。開発した組織透明化手法を病理学的な解析や生物発光イメージング法といった従来の解析手法と組み合わせることにより、個体レベルでの網羅的細胞解析の基盤技術を構築した。
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今後の研究の推進方策 |
がん根治を達成する上で、がん再発の原因となるがん幹細胞、抗がん剤抵抗性がん細胞、およびがん転移に有利な性質をもつ上皮-間葉分化転換後のがん細胞の理解は非常に重要な意味を持つ。また治療感受性などの観点においてがん細胞だけではなく血管・リンパ管、間質細胞などがん細胞を取り巻く様々な微小環境の理解は同様に重要な意味を持つ。個体における多様な状態を取っているがん細胞の性質を細胞周期、幹細胞性、上皮-間葉分化転換の観点から探索する。また血管・リンパ管の可視化に関する予備検討は既に開始しており、がん浸潤・転移におけるがん細胞と血管・リンパ管の相互作用に取り組む。多様な細胞表現型を獲得したがん細胞およびがん細胞とがん微小環境の相互作用を臓器レベルで観察するための実験系を確立することで全身における腫瘍内不均一性の理解に取り組む。本研究では、全身がん病態の個体レベルでの一細胞解析技術を開発し、抜本的治療に資する基盤技術を確立する。
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備考 |
今回、研究員らが報告した論文の成果はNews Week, BBC, France Diplomatieなど30以上の海外メディアや、毎日新聞や日本経済新聞など多数の国内メディアでも報道され、社会的にも大きく注目された。
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