研究課題
昨年度に引き続き、国立科学博物館に収蔵されている鳥類の骨格標本の観察および計測を行った。それにより、昨年度の観察・計測によって予測された「原始的なグループでは頸椎数の種間変異が大きく、胸椎は安定的」「派生的なグループでは、頸椎数だけでなく胸椎数も種によって異なり、頸椎・胸椎の総和は安定的」という傾向を支持するデータが得られた。また、今年度は、頸椎数・首の運動機能が異なるダチョウとサギに注目し、筋肉の構造、骨格形態、運動機能の関連性を調べ始めた。ダチョウは鳥類の中でも最も原始的なグループに属する種であり、その運動機能と形態を調べることは、絶滅した恐竜の仲間の首の運動機能を知る上でも重要であると考えられる。一方サギの首は、瞬間的な突出行動に特化した構造をしており、ダチョウでは可能であった首をひねる動作がほとんどできない可能性が示された。また、首の上部を伸展する筋肉の長腱が走行する部分、首に下部を伸展する筋肉の長腱が走行する部分は、共に骨の形状が特殊化し、なめらかに腱が滑る「滑車状」の形態を示すことを発見した。これはサギ特有の首の突出行動に適した構造であると考えられる。また、ダチョウとサギの頸椎をCTスキャンで撮影し、三次元の形態モデルを作成した。三次元形態解析を行った結果、形態学的特徴によって頸部が3つの領域に分けられること、領域ごとに運動機能(可動の方向や可動範囲)が異なる可能性があることが示された。
2: おおむね順調に進展している
初年度に予定していたソフトウェアの購入が延期となったことで、頸椎の三次元形態解析は予定よりも遅れているものの、頸椎数の変化パターンに関しては当初の仮説を支持する十分なデータが得られている。一方で、当初は形態解析から首の運動機能を議論する予定であったが、ダチョウやサギの肉眼解剖を行う機会に恵まれ、筋骨格構造を踏まえた首のバイオメカニクスの議論ができるようになった。それぞれの種の骨の形状と首を動かす機構を踏まえ、鳥の首の構造と機能の多様性が明らかになりつつある。
頸椎数の変化のパターンに関して、1年目・2年目に得られたデータをまとめ、論文の執筆を行う。また、現在遅れている三次元形態解析を重点的に進めるとともに、今後も積極的に解剖を行い、骨の形状、筋肉の構造、首の柔軟性に関する知見を集め、鳥類における首の構造と機能の多様性についての全容解明を目指す。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件)
Bulletin of the National Museum of Nature and Science, Tokyo, Series A (Zoology)
巻: 45(1) ページ: 31-38
日本機会学会
巻: 122(1204) ページ: 10-12