本研究の目的は、王権構成者の居住形態の再検討から日本古代王権構造の特質を解明し、学界全体に対して学術的な貢献を行うことである。 本年度は、昨年度に引き続き、①中国および朝鮮三国、日本における居所派生語の収集・分析、②日本の「後宮」について考察を行った。 ①のうち中国史料については、昨年度、台湾・中央研究所の「漢籍電子文献資料庫」の検索機能を使い収集したリストをもとに、これも昨年購入済みのテキストでそれぞれの用例について確認した。また、朝鮮三国については『三国史記』については博捜し、「中宮」「後宮」「東宮」の用例を確認したが、『三国遺事』はまだ確認が終わっていない。日本の居所派生語については収集は一通り終えたところである。 ②については昨年に引き続き「後宮」の分析、考察を行った。そのうち、昨年度中に原稿を提出していた「采女・兵衛貢進制度の一考察」が本年度末に刊行された。また、平安初期における後宮再編についても論文にまとめ、学術雑誌に投稿したが、2度のリジェクトを受け改稿し、現在再投稿中である。 さらに、中央公論新社から新書の執筆依頼を受け、「日本古代の後宮」をテーマに執筆することとなり、「後宮」についての考察を早急に進める必要が出てきた。特に、日中の「後宮」の大きな違いである、奈良時代までの日本キサキが天皇・大王と同居せず、独立して居所を構えていた事実は、日本古代の後宮の最大の特徴である。こうした違いが何に起因するのか、またキサキが内裏に取り込まれる平安時代以降、後宮はどのように変化していくのか。以上の点を念頭に、日中の「後宮」の分析・考察を行っている。
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