本研究の目的は、王権構成者の居住形態の再検討から日本古代王権構造の特質を解明し、学界全体に対して学術的な貢献を行うことである。 本年度は、9月から出産・育児による研究中断のため、8月までの5ヶ月間の活動であったことから、昨年度に引き続き、中央公論新社の依頼による新書執筆、および同時に行っている科研費(若手B)の研究とも関連する、日本の「後宮」についての考察を集中的に行った。 以上の成果の一部を「令制以前のキサキ制度と「後宮」」と題して、7月に口頭報告した。本報告では、日本と中国における「後宮」の違いと共通点を明らかにするとともに、中国の後宮制度を範としたキサキの制度が6世紀以降、日本でも整備されていくことを明らかにした。キサキ制度とは、世襲王権において、大王(天皇)の再生産をするための制度である。大王の配偶者として女性であるキサキのみが置かれているということは、大王の再生産は男王のみが担うことが前提とされており、女帝や女系による継承は想定されていないということである。つまり、日本の皇位継承は世襲王権の成立する6世紀以降、男系継承が志向されていたと考えられるのである。 また、以前から投稿していた「日本古代後宮制度の再編過程」という論文が、『日本史研究』の査読を通過し、11月に掲載されることとなった。本論文では、平安時代初期における後宮制度の再編について、平城朝の諸改革に注目して検討した。本研究における「後宮」の検討は、本論文での検討結果に基づいているため、本論文の公表によって、本研究の意義がさらに高まることとなった。
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