研究課題/領域番号 |
17J40032
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研究機関 | 基礎生物学研究所 |
研究代表者 |
河合(久保田) 寿子 基礎生物学研究所, 環境光生物学研究部門, 特別研究員(RPD)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 光合成 / 光化学系 / PSI / PSI-LHCI / 緑藻 |
研究実績の概要 |
植物や緑藻が行う光合成反応では、効率よく太陽光エネルギーが化学エネルギーに変換される。その初期過程の明反応では100%近い量子収率を実現している。この明反応の最終ステップを担うのは、光化学系I(PSI)という色素-蛋白質複合体である。植物や緑藻のPSIは、その周囲に集光機能に特化したアンテナLHCIを持つ。植物は4分子(Lhca1~4)からなる小型アンテナを持つが、植物の祖先とされる緑藻は、9種類(Lhca1~9)からなる大型のアンテナを備えており、植物と比較して40%も多くのフォトンを集める能力を持つ。植物のPSI-LHCI結晶構造は古くから報告例があるが、緑藻では結晶構造報告例は無く、負染色からの電子顕微鏡・単粒子解析例も分解能が低くLhcaの配置については最終決定に至っていない。そこで本研究では緑藻PSI-LHCIの立体構造を解き明かし、高い集光能力の仕組みを解き明かすことを目的とした。本年度はまず精製方法の改良を行った。精製したPSI-LHCIの電子顕微鏡画像を取得し、単粒子解析を行った結果、緑藻PSI-LHCIには10分子のLhcaが結合していることが明らかとなった。しかしながら、緑藻には9種類のLhcaしか存在しないことから、いずれかのLhcaが2分子結合していることが示唆された。そこで複数のLhca欠損株を用いて単粒子解析を行った。その結果、1分子のPSIに対して2分子のLhca1が結合していることが明らかとなった。10分子のうち、8分子はPsaF/J側に4分子+4分子の二層構造を形成し、2分子はPsaGとPsaHの間に位置していた。後者の2分子は植物には無い新規のアンテナ配置であり、変異体を用いた解析からこれらはLhca2とLhca9であることを解明した。このように、長く議論のあった緑藻PSIのアンテナの数と位置を決定することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
精製方法の改良:9種類のLhcaからなる大型アンテナがPSIから解離しにくい溶液条件を決定した。アンテナの解離は、クロロフィルの低温蛍光及び蛍光寿命解析により判定した。次に精製方法の改良を行った。これまではショ糖密度勾配遠心法のみでPSI-LHCI複合体を精製していたが、同程度の密度を持つATP合成酵素が分離出来ないという問題点があった。そこでPSIのPsaC、PsaE、PsaAサブユニットが作るポケット構造を特異的に認識するフェレドキシン(Fd)という電子伝達蛋白質を利用したアフィニティー精製方法を確立した。まずリコンビナントFdをCNBr-activated sepharoseに固定し、Fdカラムを作製した。そしてFdカラムにPSIを吸着させ、十分に洗浄した後、溶出した。通常アフィニティー精製では塩濃度を500 mMまで上げることでサンプルを溶出するが、高濃度の塩はPSIからLhcaを解離させてしまうことが懸念された。そこで複合体の安定化に寄与するがPSIとFdの相互作用を阻害するBetainを利用した。BetainとNaCl濃度を検討し、1M Betainを加えることで30 mMという低濃度のNaClにて溶出できる条件を得た。 単粒子解析:グリッドにPSI-LHCI試料溶液を滴下した後に重原子により染色し、三次元トモグラフィーにて画像を取得して単粒子解析を行った。その結果、これまでに報告されていない大きなPSI-LCHI構造を得ることに成功した。しかしながら、サブユニットが識別出来る分解能には至らなかったため、クライオ電子顕微鏡による単粒子解析を行った。その結果、9種類10分子のLhcaを含む緑藻PSI-LHCIの全体像を捉えることに成功した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、緑藻PSI-LHCIの全体構造を捉えることに成功した。その構造によると、緑藻のPSIは9種類10分子のLhcaを結合していた。8分子はPsaF/J側に4分子+4分子の二層構造を形成し、2分子はPsaGとPsaLの間に位置していた。後者の2分子は緑藻特異的なアンテナ配置であり、今後はLhca欠損株を用いた分光学的解析を取り入れることで、緑藻PSIが持つ高い集光能力の仕組みを解き明かすことを目指す。
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