レジオネラはヒトに重篤な肺炎を引き起こす病原細菌である。IV型分泌装置を使って約300の病原因子を宿主真核細胞に輸送し、細胞内ネットワークを多様な方法で攪乱することで宿主内で液胞(Legionella Containing Vacuole: LCV)を構築し細胞内増殖を達成する。IV型分泌装置は細菌が接合伝達のために獲得したものであるが、これがどのように病原因子を輸送しているかは不明である。レジオネラDot/Icm IV型分泌装置は、レジオネラ内膜と外膜のコア複合体の構造がすでに明らかになっているが、内膜に局在する複合体の構造や構成タンパク質についてはほとんど情報が得られていない。そこで、本研究では、レジオネラDot/Icm IV型分泌装置の部分複合体を含んだ全体構造の成り立ちを把握することを目的とする。特に、輸送機能の中核を担うATPaseを含んだ内膜複合体の構造及び機能解析に焦点を当てる。昨年度の解析からATPaseはコア複合体と同様にレジオネラの両極に局在することが分かり、また、生化学解析から、3つのATPaseのうちの1つがレジオネラ内膜に局在する内膜複合体と相互作用することが強く示唆された。そこで本年度は、レジオネラ野生株および内膜コンポーネント欠損株を用いて蛍光顕微鏡でATPaseの局在を解析した。その結果、ATPaseとの相互作用が確認された内膜コンポーネントが欠損した株で、ATPaseの極への局在が顕著に減少した。ATPaseは膜貫通ドメインを持たないタンパク質であることから、本結果はこれら内膜コンポーネントとATPaseが相互作用している可能性を強く示唆していた。現在は、クライオ電子顕微鏡によるATPaseと内膜コンポーネントの複合体の構造解析に取り組んでいる。
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