研究課題/領域番号 |
17J40054
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
松田 なつみ 東京大学, 医学系研究科, 特別研究員(RPD)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | チック / 感覚現象 / 行動療法 / バイオフィードバック / 行動実験 |
研究実績の概要 |
本年度はチックへの行動療法及びチックと関連する脳機能、チックや関連する不安障害へのバイオフィードバック研究の文献研究を行い、バイオフィードバックを伴う行動療法の予備的な介入計画を作成した。その介入計画を研究会において、発表したところ、NIRSにおけるチックやその抑制に関連する脳部位の測定困難さや、NIRSバイオフィードバック研究の技術的な難しさについて教示され、NIRSを用いない介入計画への大幅な修正を行った。 その修正のために、ブレインスポッティングやフォーカシング、HRV呼吸法等の介入技法を学ぶトレーニングを受けた他、臨床機関において自身がニューロフィードバックを体験する等幅広くバイオフィードバック技法について学んだ。 その後、チック障害の病態や実現可能性の観点からHRV呼吸法をバイオフィードバックとして用いた2種類の介入計画を作成し、現在倫理申請書の作成の準備を進めている。 同時に、大学病院で臨床心理士としてチック障害を有する子どもや成人への行動療法の実施を続けてきた。その中で、チック障害を有する方へ行動療法を行う際に、課題となりやすい点が複数明らかになり、今後チックへの行動療法の効果研究を実施していく上でどのような工夫や修正を行うべきか明確になった。 さらにアメリカで行われたチックへの行動療法の研修会に出席し、チックへの行動療法の第一人者であるWoods氏からケースのスーパーバイズを受け、アメリカトゥレット協会の公式なチックへの行動療法のライセンスを取得した。 チックへの行動療法の準備に加え、これまでのチック症状の病態理解を進める研究の発表を鋭意進めており、チックへの行動実験の研究を国際学会で発表しポスター賞を受賞しており、抑制能力と前駆衝動の関係についての研究を国際誌に投稿する準備を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1年目はNIRSを用いたバイオフィードバックを行うために、トゥレットの脳機能についてのレビューやNIRSを用いた脳評価に関する論文のレビューを行ったほか、NIRSの研究会にも積極的に参加し、NIRSを用いたバイオフィードバック研究の準備を行った。しかし、NIRSの特性上、正確なニューロフィードバックが難しいこと、チックの抑制に関わる脳部位の測定に適さないこと等が分かり、NIRS以外のバイオフィードバック方法を探すことが必要となった。 次に脳波を用いたニューロフィードバックに着目したが、脳波ニューロフィードバックをチック障害に行った研究のレビューや自身がニューロフィードバックを経験し、脳波ニューロフィードバックの欠点(変化に時間がかかること、脳がすぐに元の状態に戻ってしまうこと、比較的安価に手に入るニューロフィードバック専用の機器では脳部位の測定を正確に行いづらく、正確に評価する機器の購入には予算が大幅に足りないこと等)があり、脳波によるニューロフィードバックの計画も変更が必要となった。 次に比較的単純な仕組みで、家庭での実施も可能なHRV(Heart Rate Variability)の研修会に参加し、自身も継続的にHRVバイオフィードバックを体験する中で、HRV呼吸法を用いたバイオフィードバックとチックへの行動療法を併用して実施する計画を立てた。HRVについては、カウンセリングと併用することでよりうつ症状を下げる効果があることが示されており、恐怖症への暴露反応妨害法とHRVバイオフィードバックを併用する効果研究が始まっている。そのため、トゥレットにおいて、HRVと行動療法を合わせた介入研究を行うことは現実的であり、効果が期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
チックへの行動療法の中で最も広く用いられ、大規模なRCTで効果が示されており、初年度に申請者が公式ライセンスをCBITを中心としたチックへの行動療法を実施し、その効果を検討する。CBITは効果が高いものの、CBITを行ってもチック症状が十分に改善しない患者も子どもで47%、大人で62%ほど存在する。実際、自身がライセンス取得の際に行ったCBITもプログラム通りにきちんと実施したにもかかわらず、十分な反応が得られなかった。そこで、申請者は従来のCBITの中でコアとなる介入、機能分析とハビットリバーサルはそのまま残しつつ、単独での効果は実証されていないリラクゼーションをHRV(Heart Rate Variability)バイオフィードバックに変更することで、より高い治療効果を狙う、日本版CBITを実施する。 また、これまでのトゥレットへの行動療法の経験から、面接室では実施できても、家ではなかなか練習することが難しく、そのことが介入の効果を低くしていることが示唆された。そのため、バイオフィードバックをゲームで実施できるようにする、ADHDに対するペアレントトレーニングのようなご褒美表を導入する等の工夫を取り入れる。 さらに、自身のチック症状がどのように生じているか気づきにくいため、ハビットリバーサルの実施が難しい身体感覚が乏しい人のために、筋電計を取り入れる。 このように複数の工夫をCBITに取り入れることで、CBITに反応する人を少しでも増やすことを目指すと共に、CBITの効果を実証し、CBITの日本での普及を目指す。
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